カタクリ①
カタクリ視点です。
カタクリ……。
孤児院で育った僕に、スタッフが付けた名前だ。
僕は物心つく頃から、孤児院で日々を過ごしていた。
僕の母……いや、そんな良いもんじゃない。
僕を生んだ女……ナズはかつて、前勇者であるアブーの女だった。
罪に問われないことを良いことにあらゆる犯罪に手を出したクズ、それがアブー。
だが現勇者であるツキミに勇者の座を奪われたことでアブーは行方知れず、アブーという絶対的な後ろ盾を失ったナズも国中の人間に憎まれ、僕を捨てて姿を消してしまった。
ただ1人残された僕は、アブーとナズの間に生まれた子供という生涯消えない烙印を押された。
『悪魔共の子が! お前の親共のせいで、俺達の人生はめちゃくちゃになったんだ!!』
『女を襲って汚い種をバラまく前に、さっさと死んでくれない?』
『お前は生きていること自体が罪なんだよ!!』
僕自身は何もしてはいない。
ただ、アブーとナズの血を引いているという理由だけで……僕はずっと”国中の敵”として虐げられていた。
ただアブーが行方をくらませた後、ナズは貴族に体を売って金を得ていたらしいので……本当にアブーの子供なのかは定かじゃない。
だけど周りからはすでに、アブーの子供ということで定着してしまっている。
そして大人達から責められる僕を見て、アブーとナズのことを知らない僕と同年代の子達も、僕が”悪魔の子供”だと刷り込まれ……僕をいじめる様になった。
『悪魔の子供だ! やっつけろ!!』
『お前なんか地獄に堕ちてしまえ!!』
殴られ……蹴られ……罵声を浴びせられる日々。
ボロボロになった僕を見ても、誰もが”ざまぁみろ”と蔑む。
”僕が何をした?”
”どうして僕は周りから傷つけられないといけないんだ?”
誰かに助けを求めたかった……だけど、僕に味方なんていない。
孤児院に人として僕を扱ってくれている女性スタッフはいた。
僕にカタクリと名付けたのもそのスタッフだが、僕のことを助けようとはしてくれない。
『ごめんね、カタクリ君』
口癖のように女性スタッフが掛けて来る言葉……。
でも僕は謝ってほしいわけじゃない。
ただ僕の隣にいてほしい……僕を励ましてほしい……僕を守ってほしい。
本当にただそれだけなんだ……なのに、この人は何もわかっていない。
口では良い人ぶってはいるが……どこかよそよそしい態度は他の奴らと同じだ。
僕は僕自身の理不尽に強い憤りを感じていた。
そして8歳の頃から、僕はその憤りのはけ口を求めるようになった。
----------------------------
『ふざけるなよ、この犬!
いきなり僕に吠えやがって!!』
『なんで何もしていない僕がいじめられて、猫って理由だけで何もしていないお前が餌を恵まれるんだよ!!』
そのはけ口として選んだのが僕より力が弱い子犬や子猫だ。
最初は餌を盗んでゴミ箱に捨てたり、しっぽを引っ張ると言った嫌がらせ程度のことしかできなかったが……。
「死ねっ!!」
ゴンッ!
11歳を迎えた頃からはその程度じゃ満足できなくなった。
だから僕は……石を投げたり、棒切れで殴るといったシンプルな暴力へと手段を変えた。
『キャン!』
『ニャー』
痛みで苦しむ動物共の歪んだ顔がたまらなかった。
”もっと苦しめ!”
そんな衝動に駆られた僕の手は緩むことも止まることもなかった。
罪悪感?
そんなものは微塵も感じない。
僕と同じく”生きているだけ”の存在のこいつらが、人から無償の愛を受けるなんて許せない。
何もしてないくせに周りから可愛がられやがって……そんな贅沢は僕が許さない!!
こいつらも僕と同じ痛みを味わうべきだ……僕のように苦しむべきだ。
----------------------------
『ハハハ!! 死ね死ね、無様に死んでしまえ!!』
そして15歳を過ぎた頃から行為はエスカレートしていき、小さな動物を孤児院から盗んだナイフで飼い犬や飼い猫を殺し、飼い主の家の前に置くという自分なりのストレス発散方法を生み出すことができた。
可愛がっていたペットが無残な姿になって帰って来た時に見せた飼い主共の絶望しきった顔……何度見ても胸がスカッとする。
ざまぁみろと心から思える。
いやそもそも、これは単なるストレス発散じゃない……僕を虐げる下衆共と僕を助けないクズ共への復讐だ。
----------------------------
だけどある日……。
そんな僕に一筋の光が差し込んだ。
「死ねよおら!!」
「お前のそのくせぇ息、いつまで吸わないといけないんだよ!」
この日も僕は同年代の男の子達から虐げられていた。
僕は抵抗もできず、ただ黙って暴力に耐えるしかなかった。
「やめなさいよ、あんた達!」
制止を呼び掛ける強い声……。
それは僕ではなく、僕を虐げるクズ共へ向けられた声だった。
「なんだよお前……」
そこにいたのは、僕と同い年くらいの可愛い女の子だった。
「あんた達こそ何?
事情は知らないけど、たった1人に寄ってたかって……恥ずかしくないの?」
「うるせぇ! 女のくせに、俺達のやることに口を出すな!」
「数に物を言わせる女々しい男なんかに、指図されてくなんてないわね」
ガタイの良い男達を相手に、少女は臆することなく煽った。
「なんだと? テメェ、俺に喧嘩売ってんのか!」
癪に障った男が持っていた鉄の棒で少女を殴ろうとするも……。
ドスッ!
少女は軽やかに避けて、腰に差していた木剣を抜いて男の後頭部目掛けて振り上げた。
「おごっ!」
男は脳震とうでも起こしたのか……倒れて動かなくなった。
「こっこの女……ふざけたことしやがって!
おいてめぇら、この女から先にやっちまえ!!」
「ヒヒヒ……よく見れば、良い女じゃねぇか」
下卑た笑みを浮かべながら少女を取り囲むクズ達。
僕は何もできず、ただじっと様子を伺うことしかできなかった。
少女は数の暴力に負けて、辱められるだろう。
そう思っていた……。
「やっちまえ!!」
バキッ!
ドタッ!
ドスッ!
信じられなかった……。
無駄にガタイが良く、武装している上に数も多いクズ達が……細身の少女1人に地べたを舐めさせられていった。
そして時間にしてわずか3分……気が付けば少女だけがその場に立ち、クズ達は全員地面に転がっていた。
「まだ続ける? それとも大人しくこの場から立ち去る?」
クズ達をなぎ倒した直後なのに、少女は汗もかかずに余裕の表情を浮かべていた。
「ちっちくしょう! 覚えてやがれ!」
捨て台詞を残し、クズ達は蜘蛛の子を散らすように逃げていった。
「君、大丈夫?」
クズ達が立ち去った後、すぐさま少女は僕の元へと駆け寄って来た。
「あっあの……」
「話は後。 ケガがひどいようだし、まずは医者の所に行きましょう。
立てる?」
「えっと……はい」
僕は少女に言われるがまま立ち上がり、医者の元へと歩いた。
「……」
同伴してもらっている途中で少女の右の袖が破れていることに気が付いた。
そこからにじみ出る血がとても痛々しく見えた。
「あの、あなたもケガして……」
「あぁこれ? 私は鍛えているから大丈夫。 それよりもう少しだから、頑張ろう」
どうしてだ?
どうしてこの少女はそこまでして、見ず知らずの僕を助けようとしてくれるんだ?
わからない……でも不思議だ。
この子のそばにいると、心が落ち着く気がする。
次話もカタクリ視点です。




