カタクリ②
カタクリ視点です。
少女の手を借りて病院を訪ねた僕は、医者の手当てを受けた。
医者は僕の顔を見た瞬間、嫌そうな顔を浮かべたが……少女が手当てをお願いしたことで、渋々了承してくれた。
少女が僕の隣にいてくれたので、手当てを途中で放棄するような真似はできなかったみたいだ。
-----------------------
手当てを受けた後、僕は病院のロビーで待ってくれていた少女に改めてお礼を伝えに向かった。
「あっ!」
僕の姿を見た途端、少女は腰かけていた椅子から勢いよく立ち上がり、僕の元へ駆け寄ってきた。
少女のきれいな目と合った……なぜかはわからないけど一瞬、目をそらしてしまった。
「あの……ありがとうございました。
えっと……」
「あっ! 自己紹介がまだだったわね。
私はリンドウ、よろしくね」
「ぼっ僕はカタクリです。 こちらこそ、よろしく……」
思えばまともに自己紹介したのはこれが初めてだ。
今までの奴らは僕がアブーとナズの子であるという事実だけを把握して、名前を呼ばれたことすらなかったから……。
「なんともなくてよかったわ」
「えっえぇ……」
横目に見えた少女の袖にうっすらと残る痛々しい血の跡。
今まで他人がどれだけ傷つこうとなんとも思わなかったのに……僕のために傷を負ってくれた事実に……胸が締め付けられそうな痛みを感じた。
胸が痛い……息苦しい……呼吸がしづらい。
病気?
いやそうじゃない……もしかしてこれが罪悪感?
「どうして……僕を助けてくれたんですか?
僕はその……ナズの子供なのに……」
僕は生まれて初めてナズの子供と名乗った。
口にするのもおぞましかったけど……僕は知りたくてたまらなかった。
少女が僕を助けてくれた理由を……。
「私は助けたいと思ったから助けただけよ。
理由なんてない……本当にただそれだけ。
それに……あなたが誰の子供かなんて関係ないよ」
少女が僕に向けた温かな笑顔……悪意のない純粋な言葉……。
僕の中で何か熱いものが刻まれたような気がした。
-----------------------
それから僕はリンドウに守ってもらうような形で帰路に着いた。
道中、僕のことを虫けらのように扱っていた連中と何度かすれ違ったけど……リンドウが隣にいてくれたおかげで何もされなかった。
それに……。
『大丈夫だからね』
『疲れてない?』
『無理せずゆっくり歩こうね』
初めて僕と肩を並べて歩いてくれたリンドウは、僕を気遣う言葉を何度も掛けてくれた。
頭の中では何度も……。
”信じてはいけない……全部上辺だけだ!”
と叫ぶ声が響いているのに、リンドウの声を聞くだけで胸が少し軽くなる。
どうしてだろう?
なんだろう?
この心地よい感覚は……。
『傷は痛まない?』
これが……人の温もりなのか?
リンドウとは会って間もない関係なのに……こんなふうに接してくれる人がいるなんて思ったこともなかった。
”リンドウと離れたくない”
”もっとリンドウと話がしたい”
僕の心が初めて他人を求める声を上げた。
-----------------------
「さてと……カタクリの手当ても終わった訳だし、私はそろそろ行くわ」
孤児院に着くと、リンドウは僕をいじめる連中がいないか周囲を1度見渡し……危険がないことを確認すると、僕に背を向けた。
「えっ? もう行くの?」
「うん、随分と訓練をさぼっちゃったから」
「……」
「また何かあったら言ってね?
私にできることなら力になるから。
じゃあ、またね!」
「あっ……」
リンドウは僕に軽く手を振って行ってしまった。
僕は何も言えず、リンドウの姿が見えなくなるまで見送るしかなかった。
「……」
リンドウがいなくなった途端、僕の周囲はシンと静まり返った。
肌をなでる風がやけに冷たく感じる……立っているだけなのに体が震える。
1人で歩くのが怖い……。
今までこうして生きてきたのに……僕はどうしてしまったんだ?
「リンドウ……」
名前を口にするだけで、またあの笑顔が浮かんでしまう……無性に会いたくなる。
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それ以来、
少女の手を借りて病院を訪ねた僕は、医者の手当てを受けた。
医者は僕の顔を見た瞬間、嫌そうな顔を浮かべたが……少女が手当てをお願いしたことで、渋々了承してくれた。
少女が僕の隣にいてくれたので、手当てを途中で放棄するような真似はできなかったみたいだ。
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手当てを受けた後、僕は病院のロビーで待ってくれていた少女に改めてお礼を伝えに向かった。
「あっ!」
僕の姿を見た途端、少女は腰かけていた椅子から勢いよく立ち上がり、僕の元へ駆け寄ってきた。
少女のきれいな目と合った……なぜかはわからないけど一瞬、目をそらしてしまった。
「あの……ありがとうございました。
えっと……」
「あっ! 自己紹介がまだだったわね。
私はリンドウ、よろしくね」
「ぼっ僕はカタクリです。 こちらこそ、よろしく……」
思えばまともに自己紹介したのはこれが初めてだ。
今までの奴らは僕がアブーとナズの子であるという事実だけを把握して、名前を呼ばれたことすらなかったから……。
「なんともなくてよかったわ」
「えっえぇ……」
横目に見えた少女の袖にうっすらと残る痛々しい血の跡。
今まで他人がどれだけ傷つこうとなんとも思わなかったのに……僕のために傷を負ってくれた事実に……胸が締め付けられそうな痛みを感じた。
胸が痛い……息苦しい……呼吸がしづらい。
病気?
いやそうじゃない……もしかしてこれが罪悪感?
「どうして……僕を助けてくれたんですか?
僕はその……ナズの子供なのに……」
僕は生まれて初めてナズの子供と名乗った。
口にするのもおぞましかったけど……僕は知りたくてたまらなかった。
少女が僕を助けてくれた理由を……。
「私は助けたいと思ったから助けただけよ。
理由なんてない……本当にただそれだけ。
それに……あなたが誰の子供かなんて関係ないよ」
少女が僕に向けた温かな笑顔……悪意のない純粋な言葉……。
僕の中で何か熱いものが刻まれたような気がした。
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それから僕はリンドウに守ってもらうような形で帰路に着いた。
道中、僕のことを虫けらのように扱っていた連中と何度かすれ違ったけど……リンドウが隣にいてくれたおかげで何もされなかった。
それに……。
『大丈夫だからね』
『疲れてない?』
『無理せずゆっくり歩こうね』
初めて僕と肩を並べて歩いてくれたリンドウは、僕を気遣う言葉を何度も掛けてくれた。
頭の中では何度も……。
”信じてはいけない……全部上辺だけだ!”
と叫ぶ声が響いているのに、リンドウの声を聞くだけで胸が少し軽くなる。
どうしてだろう?
なんだろう?
この心地よい感覚は……。
『傷は痛まない?』
これが……人の温もりなのか?
リンドウとは会って間もない関係なのに……こんなふうに接してくれる人がいるなんて思ったこともなかった。
”リンドウと離れたくない”
”もっとリンドウと話がしたい”
僕の心が初めて他人を求める声を上げた。
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「さてと……カタクリの手当ても終わった訳だし、私はそろそろ行くわ」
孤児院に着くと、リンドウは僕をいじめる連中がいないか周囲を1度見渡し……危険がないことを確認すると、僕に背を向けた。
「えっ? もう行くの?」
「うん、随分と訓練をさぼっちゃったから」
「……」
「また何かあったら言ってね?
私にできることなら力になるから。
じゃあ、またね!」
「あっ……」
リンドウは僕に軽く手を振って行ってしまった。
僕は何も言えず、リンドウの姿が見えなくなるまで見送るしかなかった。
「……」
リンドウがいなくなった途端、僕の周囲はシンと静まり返った。
肌をなでる風がやけに冷たく感じる……立っているだけなのに体が震える。
1人で歩くのが怖い……。
今までこうして生きてきたのに……僕はどうしてしまったんだ?
「リンドウ……」
名前を口にするだけで、またあの笑顔が浮かんでしまう……無性に会いたくなる。
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リンドウに会いたい衝動に駆られた僕は、それ以来リンドウを遠くから見守るようになった。
楽しそうに食事をするリンドウ……訓練をしている凛々しいリンドウ……そんな彼女の日常を遠くから見ているだけで僕の心は跳ね上がりそうになる。
できることならリンドウにもっと近づきたいけれど……彼女は常に大勢の友達に囲まれている。
いつも誰かに蔑まれていた僕にとって……それは途方もない壁だった。
だから僕がリンドウに近づくことができるのは……彼女が友達から離れて1人になった時だけだった。
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ある日から僕は手当てを受けた病院の待合室でリンドウを待っていた。
もちろん、周囲に気付かれないように物影に身を隠して……。
”リンドウはケガの具合を見てもらうためにここへ来る!”
僕はわずかな希望だけを支えに、傷の痛みも忘れてただひたすらリンドウを待った。
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それから何度病院に足を運んだのかよく覚えていない。
今日も会えないのかな?
そんな不安を抱きながら待っていたその時。
「リンドウ……」
ついに彼女は現れた。
そして僕は、考えるより先に彼女の元へと駆け寄っていた。
「あの……こんにちは」
「カタクリ、こんにちは。 あなたも傷を見てもらいに来たの?」
「うっうん。 さっき終わった所……。 もう大丈夫みたい」
「そうなんだ。 よかったぁ……」
ほっとしたリンドウが胸をなでおろす。
僕のことを本当に心配してくれていたんだ……。
生まれて初めての感覚に、僕は一瞬言葉を失った。
「あっ! じゃあもうすぐ診察時間だから行かなきゃ、またね!」
「うっうん……」
リンドウはそう言うと、診察室へと入っていった。
彼女と会って別れるまで1分も経っていないのに……。
「もっと話したかったな……」
思わずそんな欲が口から漏れてしまった。
本当は診察が終わった後も話したかったけど……迎えに来た友達と一緒に帰るリンドウに声を掛ける勇気は出なかった。
次話もカタクリ視点です。




