カタクリ④
カタクリ視点です。
リンドウに想いが伝わらなかったあの日から、僕の日常は色を失った。
彼女はコスモスと共に入団試験に合格し、僕の目の届かない世界に行ってしまった。リンドウに会いたくても、会う手段すら僕にはなかった。
ただ空しく過ぎていく時間と共に憎悪だけが澱のように溜まっていく。
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だが、そんな僕にもチャンスが巡って来た。
ある日の夜……誰もいない孤児院の裏庭で、この憤りを少しでも発散しようと思った僕はまた小さな動物を探していた。
すると、暗い茂みの向こうから物音が聞こえた。
気になって覗き見ると、孤児院で僕を担当している女性スタッフが見知らぬ男に襲われていた。
男は離れた所で見ている僕が鼻を塞ぎたくなるほど酒臭く、彼女を物のように扱っていた。
彼女は必死に抵抗するも、大柄な男の前では何の意味もなかった。
あの女性スタッフは日頃から僕に良くしてはいたが、助けたいなんて微塵も思わなかった……ただ僕は、その光景を黙って眺めていた。
性的な興味で眺めていたわけじゃない。
ただ女の小さな悲鳴を聞いて、恐怖に震える涙を見ていると……胸に溜まっていたコスモスへの憤りが少し軽くなっていくように感じるからだ。
カシャ! カシャ!
事が終わると、男は近くに放り投げていた上着からカメラを取り出し、倒れ込んだ女性スタッフに向けてシャッターを切った。
「ヒヒヒ……。 誰かに言ったら……分かってるよなぁ? 上級騎士であるこのオダマキ様がその気になったら、お前の人生なんて簡単に終わるんだよ」
下卑た笑いと共に男はカメラをまた上着のポケットへ無造作に突っ込んだ。
女性スタッフは目が死んでいて、微動だにしなかったが……そんなことはどうでもいい。
今の僕の頭には、この状況を利用してリンドウの元に行くことしかなかった。
サッ!
僕は息を殺して男に近づき、カメラをポケットの中から抜き取った。
男が酔って気を緩めているおかげで、思った以上に簡単にカメラを手にすることができた。
「これがあれば……またリンドウに会うことができる」
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数日後、僕は女を物色するように町を歩くオダマキを見つけた。
僕は現像した写真を数枚、彼の目の前に突きつけた。
「な、なんでその写真を……」
「答える気はない。
先に言っておくが……僕からこの写真を奪っても無駄だ。
カメラ本体は僕の仲間が持っている。
僕に何かあれば、すぐに写真を町にバラまくように言ってある」
仲間なんていないが、死人のように顔が青ざめているこの男には十分通じるハッタリだったみたいだ。
「な、何が目的だ? 金か? 女か?」
「そんなものはどうでもいい。
ただ僕を騎士団に入れろ。それも、簡単には追い出されないようにな。
上級騎士様なら簡単だろう?」
「ぐっ!」
「そうすれば、この写真が世間に出ることはない。さあ、どうする?」
「……」
オダマキは黙り込んで考え始めた。
はっきり言ってこれは賭けだった。
もし万が一、オダマキがやけになって襲い掛かってきたら、僕はひとたまりもない。
だけど、僕に恐れなんてものはなかった。
このまま何もできずにリンドウと会えない日々を過ごすくらいなら、オダマキに殺された方がマシだ。
「……わかった。 要求を呑む」
オダマキは苦々しい顔で頷いた。
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そして僕は2週間後、正規の手続きなど踏まずに、騎士団の門をくぐることになった。
あの日以降、あの女性スタッフは心を壊して孤児院をやめていったが、僕は罪悪感も後悔も感じなかった。
リンドウ以外の人間がどうなろうと知ったことじゃない。
――今度こそ、リンドウを取り戻す。
僕の胸を埋め尽くしているのはその思いだけだ。
「今、会いに行くよ……僕のリンドウ」
騎士団の制服に袖を通しながら、僕は誰にも見せない笑みを浮かべていた。
次話もカタクリ視点です。




