28話 跳躍
「そんな・・・嘘だろ??ミーシャ?・・・ミーシャ??返事を・・・ミーシャ?」
唐突な絶望の炸裂音に全身から力が抜けその場にへたり込む。
「何で・・・何もしてないのに・・・コッチに来なけりゃ何も無かったのに・・・ミーシャは獣人なんだぞ・・・お前らヒトゴロシだ!!ヒトゴロシだよ!!」
絶叫が雨音よりも強くコダマする。俺はたまらずにミーシャが居た場所へ駆け寄ろうとするが、銃を構えたハンター達に遮られ近寄れない。
「俺は・・・やっと本当の自分の気持ちに気がついたのに・・・本当に大切なものはなにか知ることが出来たのに・・・イヤだよ!ミーシャ!!お前が居なかった俺は・・・俺は、どうすれば・・・」
それでも、ヨロヨロと彼女の元へ這いずるように向かおうとする。
(そんなはずは無い。ミーシャは強いんだ!そんなはずは・・・)
「・・・うん?」
不意に背中の服を何者かに引っ張られて、そのまま山の斜面を滑り落ちるようにしてその場から離された。この力強い走り!俺を咥えて駆ける巨躯は・・・ミーシャ!?
「ウソだろ!?今、撃たれ・・・そんなことどうでもいい!!よかった!!無事なんだね!?ああ、ミーシャ!ミーシャ!!もう絶対離れないでくれ!!」
まるで母親にしがみつく駄々っ子のように俺は彼女の背に顔を埋めて泣いた。
(見て?)
促され足元を見るとかなり冷たい空気が流れている事に気がついた。これは・・・霧!?
振り返るとハンター達がミーシャが倒れているであろう場所で困惑し、右往左往している。
「・・・そうか!!霧が強い光で鏡みたいに・・・アイツら影を撃ったんだ!ははっ!!ざまあみろ!」
とはいったものの、一度難を逃れただけでこのまま逃げ切れるはずも無く、程なく警察犬が吠えながら追いついてきた。
「これでも喰らえっ!魚召喚!!」
・・・何事も起きない。
「あれ!?出ろ!魚!!」
再度召喚の構えをとるが此方では全く反応がない。
「クソッ!何でこんな大事なときに出てこないんだよ!!」
犬が後数メートルまで迫ってきていたが、ミーシャが殺気全開で睨みつけると怯えてその場に留まった。
「ああ、ミーシャ。そんなに速く走ってはダメだ!肩からまた出血が・・・!!どうすれば・・・。神様!もしいるのなら俺はどうなってもいい!彼女を!!ミーシャだけでも助けて下さい!」
そんなもの居ないことくらい分かってる。それでも声に出さずにはいられなかった。
「もう山のてっぺんが見える・・・登りきったらいよいよ逃げる場所が無い・・・どうする!?」
木々をなぎ倒しひたすら駆ける俺達をサーチライトが捉えるが隠れる余裕は無い。そして、とうとう頂上まで来てしまった。
「ロルゥゥ・・・」
もはや逃げ込む場所もなく、じりじりと迫り来る犬や大勢の人の気配・・・。
どこか・・・どこか・・・。
「あの崖に架かる濃い霧が見えるだろ!?あの下がどうなっているのか分からないけれど、もうあそこしかない!アッチに繋がってるって信じて飛び込もう!最悪落っこちて死んじゃうかもだけど、アイツらに捕まって撃たれるよりはマシだぜ!それにお前と一緒なら本望だ!どうだ?俺と死んでくれるか?ミーシャ!!」
返事を聞くよりも早く何の躊躇いもなくその巨躯を跳躍させ、俺とミーシャの二人は霧に吸い込まれるように消えていった。




