魔物の街 98
とりあえずと言うことでいつものスタジャンを羽織った誠が食堂の前で見たのは中を覗き込むこの寮の住人である男性下士官達の姿だった。
「ああ、神前曹長」
振り返った小柄な西に誠は黙って中を指差してみる。
「あんな有様でして……」
その西の声に合わせて誠は食堂の中を覗き込んだ。
座っているのはシャムと茜。その隣には真剣な目つきで一口くらいの蕎麦を入れた椀を構える吉田とラーナの姿があった。
「何してるの?」
誠の言葉に手を広げて呆れてみせる西。二人の間に下からアイシャが顔を出した。
「知りたい?」
「別に……っていうか朝の忙しいときにあの人達何を始めたんですか?」
西の言葉が続く間にもシャムと茜の目の前の椀には二人が蕎麦を口に入れてからになるたびに吉田とラーナの手で蕎麦が放り込まれる。
「わんこ蕎麦だな」
タバコの煙をさせながら顔を出す要。そのうれしそうな表情に誠は眉をひそめた。
「地球の岩手とかの料理らしいぞ」
その隣にはいつの間にかカウラがいる。誠が部屋の中に視線を移すとシャムと茜の前に数十の椀が積み上げられているのが見えた。
「料理……ですか」
蕎麦以外にも二人の前には刺身やら煮付けやらが並んでいるがとてもそれに手を出す余裕は二人には無かった。蕎麦を飲み込むたびに蕎麦を入れる吉田とラーナに攻め立てられるようにして二人は手に持った椀を口に運ぶ。
「妙に盛り上がっているんですねえ」
そう言いながら誠の後ろにいるシャワー室から出てきた島田に顔を向ける。
「久しぶりだなこの勝負」
笑う島田に諦めて誠は食堂を覗き込んだ。厨房では淡々と食通の異名を持つヨハンが鍋をかき混ぜていた。
「おい!島田」
顔を出した島田を見つけるとヨハンは手招きする。厨房に向かう島田に続いてこの熱狂に少しばかり食傷した誠もついていった。
「また蕎麦ですか?」
厨房の前には大量の手打ち蕎麦が置いてあった。当然これも部隊長の嵯峨が持ってきたものだろうと思うと誠は呆れるしかなかった。
「もうそろそろ二人も限界だろうからな。そちらの汁くらいならお前等でも出来るだろ?」
そう言ってヨハンは一升瓶が何本か並んでいるのを指差した。手で貼り付けられたラベルには嵯峨の達筆で『めんつゆ』と書かれていた。島田は諦めたようにプラスチックの小鉢を取り出そうと奥の棚に向かった。




