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魔物の街 99

 めんつゆを手にした島田。誠は戸棚から小鉢を取り出して並べていく。

「あのおっさんの気の使い方はねえ……なんていうかなあ」 

 照れ笑いを浮かべる島田。誠がヨハンを見ていると鍋をかき混ぜながら福福しいその顔に笑顔が浮かんでいる。

「いいじゃないか。お前も昨日まではかなりきつそうな顔してたろ?仲間なんだから一人で不幸を抱え込んだような顔をするなってことだよ」 

 そう言うとヨハンは大きなざるで鍋から蕎麦を掬い始める。

「おい!西!菰田を呼んで来い!」 

「でも菰田さん今日は非番ですよ」 

 殴れというように丸太のような腕を振ってみせるヨハン。入り口に張り付いていた西は仕方なく廊下へと消えた。一方、食堂で歓声が起きたのはついに茜が椀の蓋を閉めて勝負が決まったからなのだろう。

「島田先輩。あの人どんだけ食うんですか?」 

 めんつゆを並べた小鉢に入れる島田に声をかける誠だが、島田は呆れたような表情で今度はざるの準備にかかった。

「おい、蕎麦の方の準備はどうした?」 

 それまでシャムに蕎麦を食べさせていた吉田が厨房を覗き込んでいる。その後ろに隠れるようにしてそれまでお預けだった刺身などをつまんでいるシャムの姿もある。

「ナンバルゲニア中尉。まだ食べるんですか?」 

 呆れた顔の島田の視線の先でシャムが大きく頷いている。

「シュペルター中尉。呼びましたか?」 

 毛玉だらけのジャージを着て頭を掻く菰田にヨハンは奥の戸棚、ざるを乗せる皿を取って来いというしぐさをして見せた。

「まったく朝から元気ですねえ」 

 そんな言葉とあくびと共に奥の戸棚に菰田が消えた。

「おう、島田と神前はもう良いぞ。後は吉田少佐とナンバルゲニア中尉が引き継いでくれるから箸でも持って待ってろ」 

「ちょっとエンゲルバーグ!何言うのよ!アタシはおなか一杯で……」 

「それはそんなものを食べながら言うことじゃないだろ?」 

 相変わらず刺身を口にくわえているシャムに呆れたようにつぶやく吉田。島田と誠は頭を下げると食堂にあふれている寮の男子隊員の中へと戻っていった。

「お疲れ!」 

 サラが島田に隣の椅子を叩きながら手を振る。厨房の奥を身を乗り出して覗いているのは要だった。

「どうしたんですか?西園寺大尉」 

「いやあな、吉田の馬鹿にこういうこと任せるとろくなことにならねえと思ってさ」 

「アイツもそんなに馬鹿なことばかりやるわけじゃないんだからよー。信じてやれよ」 

 落ち着いて箸を手にするラン。その隣にはうつむいてじっとしている茜の姿があった。

「嵯峨警視正、お疲れ様です」 

「苦しいわ……苦しいですわ……もう蕎麦は見たくも無いですわ」 

 青ざめた表情で蕎麦の到着を待つ誠達を恨めしそうに見つめる茜の姿がそこにあった。

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