魔物の街 91
こう言う土地の民衆は勘が鋭いと誠もすぐに気付いた。銃声が収まるとここまで急行する際に見なかった通行人が行き交う普通の街が広がっていた。そんな中、両手で顔をこすり、流れる涙を拭ってみせる要。誠達は黙って彼女を見守っていた。
「なんだよ!なんか……」
反発しようとしてもまるでいつもの迫力は無い。誠達の視線に気づいた要は立ち上がるとジャンバーのポケットからタバコを取り出す。
「タバコ吸ってくるわ」
「ああ、見れば分かるな」
「突っかかるじゃねえか?カウラの」
要がカウラに詰め寄ろうとしたところでランが思い切りガードレールを叩く。
「冷静になれよ、西園寺」
幼い外見のランがどすの聞いた声で要を見上げる。要は頭をかきながら事務所のドアの向こうに消えていった。
「ベルガー。どう見る?」
冷静な判断が出来ない状態の要が消えたところでランが静かにカウラの顔を見上げた。
「確かに替えの効く人身売買組織の幹部を殺害したところで大局には影響が無いと思うのですが……そもそもそれならこうして殺してみせる意味が無いですね」
「そうだ、もし研究施設が一つの意思で動いているならばコイツが死んでみせる意味が無い」
そう言ってランは白い手袋をポケットから取り出してはめる。そしてそのまま志村が守ろうとした携帯端末を掴んでその画面を眺める。
「コイツがあればこれまでの任意の事情聴取以外の方法も取れるかもな」
最新式の携帯端末。それを手にランは流れていく人々を見つめている。
「むう」
ランは携帯をカウラの車のボンネットに置くと刀を突き刺す動作をしてみせる。
「ありゃー日本刀だな。でも袈裟懸けにせずに突き殺すと言う戦法か。天井が低いから仕方が無いんだろうけどな」
そう言ってランはビルを見上げた。確かに先ほどまでいたあのこぎれいなだけの部屋は誠の180cmを超える身長で日本刀を振り回すのは少し遠慮される程度の高さの天井だった。
「それと空中に消えた男ですが……」
「神前と同じくらいのでけー体格だったな。そしてこの死体の刺し傷が三つ。どれも致命傷。刃物での殺しに慣れた奴の犯行だな」
淡々とそう言うとランはもたれていた立ち上がった。伸びをする彼女の前にパトロールランプをつけた同盟軍の車車列が猛スピードで現れて通行人を蹴散らして道路を封鎖する。後部のハッチが開くと遼北軍の制服を着た兵士達が勢い良く吐き出された。
その有様を呆然と見つめていた誠達の前に大尉の階級章の髭の男が向かってくる。
「ご苦労様です!後は我々が引き継ぎます!」
最後尾のバスから鑑識の白手袋の集団が流れ出てくる。医療班の白衣の集団がライフルを抱えて建物に向かう分隊の後ろについて走っていくのも見える。
「これの解析。頼むぞ」
指揮官の手に志村の携帯端末を持たせると銃をしまったランはそのまま道路に封鎖の為のテープを張る兵士達をのんびりした調子で眺めている。誠達も同盟軍に続いてパトロールカーで到着した東都警察の警官の視線を冷たく感じながらランの追う視線を見つめていた。




