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魔物の街 90

 ろくに管理もされていない租界の雑居ビルに誠とカウラは足を踏み入れた。エレベータは汚れが目立つがとりあえず動くらしいことは分かった。

「ここってそんなに金にならないことをしていたんですか?」 

 あまりの貧相さに誠は隣のカウラにそう尋ねるが、明らかに呆れているカウラは答えなかった。ドアが開き、二人は乗り込む。銃を構えながら通路を進む。目的のドアの前で立ち止まる二人。そしてしばらくの沈黙。二人の前で静かにドアが開いた。

「やられたよ」 

 開いたドアの前に立っていたのは拳銃を手にしたランだった。その手にした中型拳銃マカロフを手に事務所の入り口のドアを示す。カウラと誠は導かれるままに事務所へと入った。

 室内は外装の忘れられたような廊下の汚さの影もなくかなり落ち着いた事務所のような体をしていた。そしてその中央の豪華な応接セットのところで要が腹を押さえて倒れこんでいる瀕死の紫色のスーツを着たヤクザ者を支えていた。赤い染みが広がる。その腹に複数の刺し傷。恐らく致命傷であと数分と言う命だろう。誠は思わず目を背ける。

「あの兄ちゃん……姐御のこれか?」 

 力ない笑いを浮かべて一度誠を見つめた男。瀕死の志村三郎は右手の親指を挙げて見せた。青ざめた顔に強がりの笑みが浮かんでいる。

「馬鹿言ってんじゃねえよ!なあ、言えよ!なんとか!」 

 誠は初めてうろたえている要を目にした。生体パーツの複合品と自虐的に語っていた要の目から涙が流れている。それを受けながら致命傷を負った男は静かに笑みを浮かべていた。

「ありゃあ……優柔不断の相だ。泥棒猫には注意した方がいいですぜ……」 

 そう言って志村三郎は口から流れた血を拭って見せる。

「馬鹿野郎!アタシだって義体で何とか生きてるんだ!話せよ!お前が知ってることは全部!」 

 要の叫び声がむなしく響く事務所。カウラはゆっくりと要の肩に手を乗せた。

「許さねえぞ!アタシを抱いた時の金だって貰ってねえんだからな!なんだよ!その目は!神様気取りか!仏様でも気取るのか!おい!」 

 そこまで言ったところでランがつかつかと志村三郎を支えている要の顔を引っ張り思い切り平手を打った。

「おい!目を覚ませよ。これも仕事だ」 

 ランの一言で要の目に悲しみ以外の感情が戻ってくる。その有様を見ていた志村は腕の中でニヤニヤと笑ってみせた。

「うろたえるなんて……。姐御……あんたらしくも……無いじゃないですか」 

 その言葉と共に手にしていた通信端末を落とす三郎。目は開かれているが口から最期の息が漏れた。

「蘇生技術がある東都警察の医療班はあと五分で到着だそうだ。間に合わないな」 

 カウラの一言にキッと目を向ける要。いつに無い殺意がそこに篭る。しかし、思い出したように要は三郎が最期まで握り締めていた携帯端末に手を伸ばした。

「そいつはテメーの手柄だ」 

 静かにそう言ってランは要の肩を叩く。誠は何も言えずに誠の知らない顔の要を見つめていた。

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