魔物の街 89
周りの手入れがされずに朽ちるに任せるようなビル群。そんな町並みを見ながら誠がカウラのスポーツカーから降りたときに耳に響いた銃声に自然と胸の銃に手をやっていた。
「神前!」
カウラが叫ぶ。そして後部座席から飛び出してきた要の一撃で誠は転がった。
「ちんたらやってんじゃねーぞ!西園寺!」
すでに銃を抜いているラン。要は冷たい視線で誠を一瞥して目的地の重要参考人志村三郎の事務所に上がる階段を駆け上がっていく。
「神前、法術を使用している形跡は?」
冷静に後部のハッチを開き、誠のサブマシンガンを手渡すカウラ。
「感じませんけど……」
誠には銃声の後、静まった空間が逆に恐ろしく思えた。カウラもライフルにマガジンを刺し、ボルトを下げて装弾する。駆け上がっていった要達だが、銃声は聞こえない。
「私達も行くぞ!」
そう言ってエレベータルームに走るカウラ。だがしばらく走ったところで誠は強烈な違和感を感じて立ち止まった。
「どうした!」
立ち止まった誠を怒鳴りつけるカウラだが、誠の表情が次第に青ざめていくのを見て異変を感じる。そして誠の法術をターミナルとした精神感応式通信が使用できなくなっていることに気づいた。
「どうした?」
今度は歩み寄ってカウラが誠の肩を掴む。誠はただわけも分からず恐怖に震えていた。
初めての経験だった。明らかに強力な意思が誠達の侵入を拒んでいるように直接誠の精神を縛り付けるように恐怖の文字を誠の脳裏に叩きつける。
「カウラさん。要さん達が……」
そう言いかけたときビルの三階で銃声が響いた。そして誠の上空でガラス窓が破られ一人の男の姿が空中に舞い、そして銀色の空間へと消えた。誠はそれを見て恐怖の源が上空で消えた男の放ったものであることに気づいた。
「神前!神前!」
しばらくして自分が震えながらカウラの胸の中で倒れていることに誠は気づいた。
「ああ、カウラさん」
どれほどの時間だったのか、そもそも先ほどの空中に消える人影を見たのが現実なのかさえ分からない。意識の混濁、脳裏の焼きつく痛みのような恐怖。
「どうする?休むか?」
カウラが優しくそう言ってくれるが誠は自分の体が動くことを確認すると彼女の手を借りながら立ち上がった。
「大丈夫ですよ。それより西園寺さん達は?」
カウラの目は三階の先ほど男が飛び出した窓から顔を出しているランを見上げていた。
「じゃあ行きましょう」
誠はそう言いながらゆっくりとエレベータルームへと歩き出した。




