魔物の街 79
「じゃあ僕は……」
誠はどんぶりを手に取る。とりあえず二玉のうどんを取ってみた。
「二玉で足りるのか?」
カウラがつぶやく。仕方なくもう一玉とって茹で始めた。
「じっくり茹でた方がおいしいわよね」
今度はアイシャだった。本当は硬めがいいのだが言われるままにしばらく茹でている。そして昆布出汁。
「別にアタシに気を使う必要もねえのにな」
要に言われてつい愛想笑いが浮かんでいる。そしてトッピングはイカ天と春菊のてんぷら。
「なんか趣味がコアよね」
そこにリアナから声がかかる。誠は肩を落としてわざわざ誠の選択を見に戻ってきた人々と共に奥の座敷に入った。
「今頃はタコとライラが面つき合わせているだろうな。タコの奴も茜に恩は売りたいだろうし、ライラは叔父貴憎しで情報はなかなか手放さないだろうし……」
自分のどんぶりを手にした要はそうつぶやくと割り箸を口で割った。誠は自分達の謹慎がおそらくはタコこと元保安隊副長明石清海中佐を介しての情報がまとまるまでの時間稼ぎだったことにようやく気づいた。
「そうだな、たとえ主要任務が敵支配地域での情報収集が任務のライラの部隊も、戦場ではない東都で出来ることは任意の調査活動だけだろうしな。東都警察が動く様子を見せない以上、同盟司法局が発行権限を持っている捜査令状は喉から手が出るくらい欲しいんじゃないかな」
カウラはそう言うと麺を啜りこんだ。
「明石さんてずいぶん偉くなったんですね」
誠は明石のつるつる頭を思い出す。本部に転属になった後も、週に二三度は野球部の練習に顔を出す明石清海中佐。来年の6月には保安隊の影の支配者といわれている技術大佐許明華との結婚も決まっていた。
「司法局での対外窓口ってのが今のアイツのお仕事だからな。今回の件もライラが令状が欲しければ明石に頭を下げるのが手順と言う奴だ」
ランがもぐもぐとうどんを頬張っている。その姿に誠は萌えを感じてしまっていた。そして周りを見回してみるとアイシャとサラ、そして要までもが小さな口でもぐもぐとうどんを頬張るランをちらちらと眺めているのが見えた。
「おい、オメー等。アタシの顔に何かついてるのか?」
「クバルカ中佐!」
突然大声でアイシャが叫んだ。
「おっ?おい、なんだ?」
「抱きしめても良いですか?」
「はあ?」
「馬鹿言ってんじゃねえ!」
目を輝かせているアイシャを思い切りはたく要。だが、要もまたちらちらと不思議そうな顔をしてうどんを頬張るランを見つめてはため息をついていた。
「でも本当にランの姐さんはかわいいですねえ」
「撫でるんじゃねえ!」
ランの頭に手を伸ばそうとした小夏をランは力の限りにらみつけた。だがどう見ても小学校一二年生にしか見えないランの迫力ではたかが知れていた。




