魔物の街 78
「ラン、いい加減うちを会議場にするの止めてくれないかな」
店に入ると出汁の香りが広がるが、そんな中、厨房から顔を出したのは嵯峨が情報屋として使っている久間次郎の脂ぎった顔だった。
「別に良いじゃねーか!ちゃんと代金は払っているし……なんならショバ代でも払おうか?」
それほど大柄ではない久間を見上げている有様が親子のようでほほえましいと思いながら誠はそのまま奥のどんぶりに向かった。
「いっちばーん!」
いつの間にか脇をすり抜けてきた小夏が飛び出してどんぶりを手にする。
「春子さんのところの娘か……いいのか?」
「なあに、もうすでにアタシが隊長になったときのための内々定が出ているから良いんだよ」
そう言いながらランは列の最後尾に着いた。
「外道は昆布出汁だからアタシは鰹味にしてー……」
「いつまで人を外道扱いするんだよ」
「そりゃあ店を壊さなくなったらよ」
「最近は壊してねえだろ?」
「じゃあ神前の兄貴を苛めなくなったら」
「苛めてるわけじゃないぞ!」
「じゃあ、何?……ははーん」
「なんだよその目は!」
小夏の後ろに割り込んできた要。小夏は二玉、要は三玉のうどんを取り、ゆで汁に入れた。そしてすぐに取り出す要をしり目にじっくりゆでる小夏。要は昆布汁の色の薄い出汁を、小夏は色が濃い鰹出汁を選ぶ。そして要は油揚げ、ねぎ、春菊のてんぷらをトッピングし、小夏はコロッケとちくわを乗せた。
「ここで!」
誠も知っていたが、遼南風うどんは最後に一味唐辛子と青海苔をかける。小夏は大量にどちらも染まるまでかけるが、要は一味唐辛子をぱらぱら振っただけでそのまま代金をメモしている割烹着の若い女性の前を通り過ぎた。そして青海苔をかけるのに手間取っている小夏に向けて勝ち誇った笑みを浮かべた。
「西園寺。貴様は子供か?」
うどん一玉に鰹出汁、そして厚揚げとさつま揚げ、ごぼう天をトッピングしたカウラが一言言うと奥の座敷に向かう。微笑むリアナはうどん二玉に昆布出汁。トッピングはかき揚げだけだった。マリアはうどん三玉。トッピングはせず、昆布の出汁に大量に青海苔をかける。
「私はこれよ!」
アイシャが大げさに叫んでみたのはうどん二玉にえび天とアナゴ天。そして一味唐辛子で真っ赤に汁が染まったものだった。
「アイシャさん。それはやりすぎじゃあ……」
誠はそう言いながらニヤニヤと誠のチョイスを見つめているアイシャを見ながらどんぶりを手にした。




