魔物の街 76
「さすがにキノコの汁はねーな。でもちゃんと鰹と昆布はあるから安心しろよ!」
そう言って駆け出すランの姿に萌えた誠を白い目で見ている紺色の長い髪。
「誠ちゃん。実はロリコンだったの?」
そう言いながら声の主のアイシャはなぜか端末をいじっていた。
「何する気だ?」
「遼南風のうどんの店ならリーズナブルでしょ?お姉さんも呼ぼうと思って……」
要の問いに答えたアイシャが耳に端末を当てながら玄関を出て階段を下る。まだロングブーツを履けないでいるサラとそれを見守る島田を残して誠達はそのまま隣の駐車場に向かった。
「おい!お前等の端末に行く先を転送しといたからな!遅れたら自分達で払えよ!」
茜の白いセダンの高級車の脇に立ったランが叫ぶ。
「リアナさんは今日は非番なんですか」
誠は自分の端末を取り出して部隊の勤務状況の表を確認する。保安隊運用艦クルーの予定表には艦長の鈴木リアナ中佐の欄は休みとなっていた。
「カウラちゃん、お姉さんとマリアさんも来るって」
「どんどん増えるな。それにしてもこんなところにうどんの店があったのか?」
カウラの言葉に誠も自分の端末を地図に切り替えた。保安隊のたまり場であるお好み焼きの店『あまさき屋』のある商店街の奥、先日閉店したパチンコ屋の跡にそのうどん屋の情報が載っていた。
「ああ、叔父貴の通っていたパチンコ屋の跡地か。あのパチンコ屋は災難だったなあ。叔父貴はいくらあそこで稼いだのか」
噴出すように要がつぶやくのは彼女の意識と接続されている情報を見たからなのだろう。そのまま赤いカウラのスポーツカーに乗り込む誠達。ようやくブーツを履き終えたサラと島田が頭を下げながら駐車場の奥の二輪車置き場に走っていく。
「おい!神前。さっさと乗れよ」
要が後部座席に座り込んで助手席を元に戻す。そのまま誠はガソリンエンジンの高い音を響かせるカウラの車に乗り込んだ。
「じゃあ出るぞ」
フロントガラスにうどん屋までの行程が映るが、すでに行き先の分かっているカウラはそれを切る。
「トッピング……何にしようかな」
「今から考えるのかよ」
「何?私が何を食べても関係ないでしょ?」
動き出す車の中ですでにうどん屋の話を始める要とアイシャ。苦笑しながらカウラは住宅街の細い道を抜けて大通りに出た。
「そう言えば神前はどっちが良いんだ?鰹節と昆布」
加速する車の中、要の声に誠は迷った。誠は鰹節派だったが親が鰹節派だったひねくれた要が昆布しか認めないなどと言い出す可能性は否定できない。
「西園寺さんはどうなんですか?」
愛想笑いを浮かべる誠。だがアイシャもカウラも助け舟を出すようなそぶりは無かった。
「ああ、私は昆布だな」
予想通りの展開に誠はほっとして頷いて見せた。




