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魔物の街 67

「あのー、警視正……」 

 誠は遅れて歩き出した茜に声をかけた。そのいつも自信にあふれていた表情がそこには無かった。青ざめたような、弱弱しいような。そんな茜の姿に誠はその肩を叩いていた。

「私のせいで……」 

「うじうじすんなよ!間違いなくここで研究が行われていたのは確かなんだ。少なくともここを引き払うのにかかった手間と時間の分だけ被害者を減らすことが出来たんだ」 

 ランが入り口で茜を一喝する。ようやく気づいた茜が指揮車の後部にある司令室に歩き出した。

「わが国の駐留軍の部隊員は非番の隊員以外は全員身柄を拘束しました。非番の隊員も東都警察に手配して身柄を拘束する体勢はほぼ整っていると言えます」 

 女性オペレーターの声を聞くと山岳連隊隊長ムジャンタ・ライラ中佐は静かに頷きながら奥の席に腰をかける。

「自己紹介が中途半端だったな。私が遼南山岳部隊隊長ムジャンタ・ライラ……」 

「ちなみにバツイチだ!」 

 ライラに突っ込む要。明らかに殺気の込められた視線が要に突き刺さる。サラとカウラは視線を茜に向けている。後で教えてもらおうと言うわけだろう。誠は仕方なく頭を掻きながら二人を眺めていた。

「法術師の違法研究の容疑でこの基地の部隊の幹部。同盟厚生局の課長級の職員の手配を済ませて現在、その行方を遼南の特命憲兵隊が捜索中だ。よって、これからのこの事件の捜査権限は同盟軍事機構が引き継ぐことになる。これは同盟加盟国首脳の判断だ」 

 突然のライラの言葉に誠は絶句した。要もカウラも呆然と立ち尽くしていた。誠がアイシャを見ると、彼女は後ろを向いていた。

 そこには口を開けたままライラを見つめている茜とその脇で立ち尽くすラーナの姿があった。

「そんな横暴です!それに……」 

「捜査権限を軍や憲兵隊に任せるのは不安だと言うんだろ?しかし、司法局は茜に人的支援をするわけでもなく、情報開示の権限も制限して捜査をさせてきたわけだ。そんな甘い体制ではこの事件の解決には程遠いと同盟上層部は判断したのだろう。だからこれからは私がすべてを引き継ぐ」 

 ライラの声明に要の顔が皮肉の笑みに浮かぶ。

「ライラ姐さん。叔父貴に復讐したいからってやりすぎだぞ。それに同盟首脳の電話会議の結論は姐さん達もこの捜査を独自に進めると言う内容だったはずだ。アタシ等が捜査を止めようが続けようが同盟機構は関知しないって話だったはずだな」 

 そのおそらくは同盟首脳の電話会談とその後の実務者会議の議事録でも覗き見たのだろう。要の言葉は断定的で、その表情は挑戦的なものだった。誠はただ要とにらみ合うライラを見つめていた。

「要。お父様の仇を討つのは諦めたって何度言ったら分かるんだ?」 

 急に事務的で無表情に見えたライラの顔が厳しくなる。

「仇?」 

 誠のつぶやきに要が大きく頷く。

「そう!このオバサンは遼南内戦で色々あって親父のムジャンタ・バスバを叔父貴に斬られてるんだ。そこで……」 

「つまらない話は止めろ!」 

 ぴしゃりと言い切るライラだが、明らかにその表情は動揺しているように見えた。 

「西園寺。関係の無い話は止めろ。それにアタシ等は喧嘩をしに来たんじゃない」 

 ランの一言でようやく要とライラのにらみ合いが終わる。そしてライラは言葉を続けた。

「私の部隊の派遣には同盟機構や東和国防軍の正式な要請によるものだ。それに保安隊隊長の意見書つきの推薦も得ている」 

 ライラの言葉に後ろで立っていた茜がひざから崩れ落ちた。

「茜様!」 

 ラーナが表情の冴えない茜を支えた。隣ではベストから気付け薬代わりのブランデーの入ったフラスコを取り出すサラの姿もある。

「終わりにしろ?冗談は止めてくださいよ」 

 突然指揮車に乱入してきた足音に車内の全員が振り向く。

 そこには真剣な目つきでライラをにらみつけている島田の姿があった。

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