魔物の街 64
要はホルスターから抜いた拳銃を握って建物の内部に突入する。誠も続くが人の気配はまるで無かった。
「一本道か」
脱出口を確保しようと銃を構えるカウラだが、その建物の長く続く廊下を見て進む要に続いた。
「おかしくねーか?」
最後尾で警戒するランの言葉が真実味を帯びて誠にも響いた。そして倉庫のような扉を見つけた要が誠を呼び寄せる。誠はサブマシンガンの銃口の下に吊り下げられたショットガンの銃口を鍵に向けて引き金を引く。
轟音の後、すぐさま鍵の壊れた扉を蹴破り要が室内に突入する。
「空だな」
ランの言葉がむなしく何も無い部屋に響いた。要はすぐさま部屋を飛び出しそのまま廊下を進む。地下へ向かう階段で先頭を行く要は、手を上げて後続のラン達を引き止めた。
「誰かいるな」
誠はその言葉にショットガンの装弾を行うが、冷ややかなランの視線が目に入る。
「気づかれたらどうするんだ?」
陽動部隊の派手な銃撃音が響く中、それは杞憂かもしれないと誠は口を尖らせるが、カウラはそれを見て肩を叩くとゆっくりと下へ向かう要の後ろに続いた。明らかに人の出入りがあった建物だった。埃も汚れも無い階段。そして避難用のランプも点灯している。
そして地下の入り口のシャッターにたどり着いた要はポケットから聴診器のような器具を取り出すと壁に押し付ける。
「間違いねえ。人がいるぞ」
そう言って誠の顔を見上げる要。誠はシャッターの横の防火扉の鍵にショットガンの銃口を向け引き金を引く。そのまま要が体当たりで扉から進入、それにカウラとランが続く。誠もその後に続いて赤い非常灯の照らす部屋へと入った。
「これはやられたな」
ランがつぶやく。誠もその言葉の意味を理解した。
廊下には紙の資料が散乱していた。実験資材と思われる遠心分離機が銃で破壊されて放置されている。床にはガラスと刺激臭を放つ液体が広がり、明らかにすべての証拠を抹消した後のように見えた。
「遅かったじゃないか」
突然の人の声に銃口を向けた誠の先には嵯峨が着流し姿で立っていた。明らかに不機嫌そうな顔でタバコをくわえている嵯峨。
「隊長……?」
カウラはすぐに嵯峨の足元に人が縛られて転がっているのを見つけた。
「隊長、この人は?」
「ああ、この基地の総責任者の三上中佐だ。ちゃんと挨拶した方がいいぞ」
そう言う嵯峨の手には日本刀が握られている。それを見ると警戒していた要はキツネにつままれたように呆然と立ち尽くした。
「なんだよ、叔父貴は知ってたのか」
「知ってたというか……ラン」
「は!」
嵯峨のにごった視線がランを捕らえると彼女の小さな体が硬直したように直立不動の姿勢をとる。
「お前がついているから安心していたんだけどなあ……こりゃあちょっとまずいぞ」
そう言うと嵯峨は抜き身の愛刀『長船兼光』を転がっている指揮官の首に突きつけた。




