魔物の街 62
「どうせガセでしょ?」
男はそう言って笑いながら要の手にあるディスクを手にする。そして何度かじっくりと見つめた後、部下にそれを渡した。その表情には驚きがある。そこから誠も吉田のデータが明らかに価値を持つものであること知った。
「じゃあ、こちらも後ほど情報を送りますよ」
笑顔が隠しきれないという男の表情に要が満足げに頷いて見せる。
「まああれの中身をしっかり見てからで良いぜ」
そう言うと要は立ち上がった。チンピラ達は殺気を隠さずに誠達をにらみつけている。
「それと三下の教育はしっかりしておくべきだな。これじゃあ危なくてしょうがねえや」
要の言葉に男は苦笑いを浮かべた。
「行くぞ、神前」
そう言って重いドアを開けて出て行く要のあとをつける誠。要は颯爽と肩で風を切るようにして事務所の目の前に止めた銀色のスポーツカーに向かって歩く。
「何ですか?あのディスク。吉田さんの情報って……」
狭い運転席に体をねじ込むようにして座った誠を相変わらずの殺気を感じるような視線で見つめる要。
「嘘はないぞ。あれがあるとちょっと便利なんだ。まあアタシは使うつもりは無いけどな」
そう言って車のエンジンをかける要。明らかにカウラのスポーツカーを意識して購入した車のエンジンが低い振動を二人にぶつけてくる。
「それじゃあ分かりませんよ。もしかして違法な取引の勧誘とか……まさか軍事機密?」
「そんなんじゃねえよ。むしろ民間系の情報だ。ベルルカン風邪ってあるだろ?あれの特効薬の開発に成功した製薬会社が明日それを公表するが、その情報だ」
あっさりと言い切る要は車を急発進させた。
「それでも十分まずい情報じゃないですか。インサイダー取引ですよそれ」
そんな誠の言葉を無視して要は車を走らせる。租界の怪しげな店のネオンが昼間だというのに町をピンク色に染めている。
「まああの手合いから情報を穏やかな方法で手に入れるには仕方の無いことなんだよ。蛇の道は蛇と言うやつだな。それに実際今の段階ではと言うカッコつきの情報だ。発表が延びるかもしれないし……」
大通りに入っても車は加速を続ける。誠は要の表情をうかがいながら曇り空の冬の街を眺めていた。要や吉田の生きてきた裏の世界の話を聞くたびに誠はどこかしら遠くの世界に彼等がいるように感じられた。
その時急に要は車を減速させて路肩に寄せて止まった。
「西園寺さん」
誠の言葉に振り返った要はにんまりと笑っていた。
「ビンゴだ」
そう言うとしばらくの間目をつぶり動かなくなる要。脳に直接送られたデータを読み取っているとでも言う状況なのだろう。誠は黙って要を見つめた。
「遼南の駐留軍の基地か。ずいぶん危ない橋を渡るんだな」
要の言葉で誠は頭の血液が体に流れ込むようなめまいを感じながら要を見つめていた。そして一気に手のひらが汗で滑りやすくなるのを感じていた。
「神前。暴れられるぞ」
そう言う要の表情に再び悪い笑みが浮かんでいるのに誠は気づいた。




