魔物の街 56
「おっこられた!」
実働部隊の詰め所に響くシャムの叫びを無視して、ランは自分の机にたどり着くと端末を起動する。猫耳をつけたシャムが絡み付こうとするが、その襟首を吉田が掴んでいる。
「離せー!」
暴れるシャムだが120kgの重さの義体の吉田を動かすことは出来なかった。
「でもいきなり街中で発砲なんて……」
つい誠の口をついてそんな言葉が出ていた。
「東都戦争のときの方が凄かったらしいぞ。シンジケートの抗争が24時間絶え間なく行われていたんだからな」
そう言うとカウラも自分の端末を起動する。仕方ないと言うように誠も席についた。いつものように第四小隊は任務中で空。奥で第三小隊の三番機担当のアン・ナン・パク軍曹が一人でかりんとうを食べていた。
「二人とも今のうちに日常業務を済ませておけよ。忙しくなるかも知れねーからな」
始末書を書き始めたランの一言。カウラも端末の画面に目が釘付けになっている。起動した画面を誠は見つめて呆然とした。
そこには銃撃戦を行うランと要の姿とその射線から逃げる胡州陸軍の戦闘の様子が映っていた。
「どこでこんな映像!」
誠は目を疑った。回り込もうとした胡州軍の一個分隊を法術の干渉空間がさえぎっている。壁にぶつかるように倒れる兵士達。ビルの屋上らしくこの画像を撮影した人物の足が見える。
「これって……」
「今頃見たのか?吉田のところに匿名で奇特な方から直接送られてきたそうだ。世の中意地の悪い奴もいるもんだな」
ランはキーボードを叩きながらつぶやく。干渉空間を展開しているのはランでは無かった。まるで銃撃戦が激しくなるのを期待しているようなその法術師の意図に恐怖すら感じた。
「でも法術が展開されている気配は無かったんですよね?」
誠の言葉にランは手を休める。
「物理干渉系の能力は発動してもあまり精神波は出ねーからな。それにこっちだって銃撃戦で相手の防弾チョッキに弾を的確に当てるのに手一杯だったし。弱装弾を用意しておいて正解だったわ」
そう言って再びランはキーボードを叩き始める。
「誰かが我々を監視していると言うことだな」
カウラの冷静な言葉に誠は再び画面に目を向ける。発砲する胡州軍兵士の前に遼北軍の暴動鎮圧用の装甲車が飛び込んで銃撃戦は終わった。そして回り込もうとした分隊を大麗軍の戦闘服の一団が包囲する。
「結構凄い状況だったんですね」
耳元でアンの言葉が響いて思わず誠は身をのけぞらせた。その態度に明らかに落ち込んだ表情を浮かべるアン。
「そんなに嫌いですか?僕のこと……」
しなを作るアンにただ冷や汗を流す誠。カウラに視線を投げた誠だが彼女はすでに資料の整理を始めている。
「そう言うことじゃなくて……ああ、俺は仕事があるから!備品の発注は……」
ひたすらごまかそうとする誠をさびしそうな瞳でアンは見つめていた。




