魔物の街 55
保安隊隊長室。保安隊隊長嵯峨惟基特務大佐は渋い顔で目の前の部下達を眺めていた。隊長の机の前に立たされている誠。膝が震えているのが自分でもすぐにわかった。銃口に囲まれ、同盟軍の指揮官に罵倒されも包囲されている要達を説得して、そのまま護送車両で司法局に送られて豊川の本部までたどり着いた。
ともかくさまざまな出来事に振り回された誠の頭の中は何も考えられない状況だった。
「で?」
「ですから今回の件に関しては私の見通しの甘さが原因であると……」
幼く見えるランが銃撃事件の責任を一人でかぶろうとする。その姿はあまりにもいとおしくて誠は抱きしめたい衝動に駆られた。隣で立っているカウラも同じように思っているようでじっとランを見つめている。
「まあ起きちゃったんだからしょうがないよね。けが人が無かったのは何よりだ。おかげで何とかマスコミにはばれないで済んだけど」
そう言って手元の端末の画面を覗きこむ嵯峨。
「今後は気をつけます!」
ランの言葉に頷いた後、嵯峨は要を見つめた。
「……出来るだけ自重します」
「そう」
嵯峨は端末のキーボードを素早く叩く。
「一応決まりだからさ。始末書と反省文。今日中に提出な」
ランと要に目を向けた後、そのまま端末の画面を切り替えて自分の仕事をはじめる嵯峨。ラン、要、カウラ、誠は敬礼をするとそのまま隊長室を後にした。
「大変ねえ」
部屋の外で待っていたのはアイシャだった。要はつかつかとその目の前まで行くとにらみつける。
「タレ目ににらまれても怖くないわよ」
挑発するように顔を近づけるアイシャだが、その光景を涙目で見ている楓の気配に気おされるように身を引いた。
「お姉さま!」
心配そうな顔の楓はそう叫ぶと要に抱きついた。
「嫌です!僕は嫌です!せっかくお姉さまと同じ部隊になれたのに!お姉さまが解雇なら僕も!」
「誰が解雇だよ?おい、アイシャ」
楓に抱きつかれて身動きできない要が逃げ出そうとしているアイシャを見つける。
「デマは止めておけ」
そう言うとカウラは呆れたように実働部隊の執務室に向かう。誠が見回すとランの姿ももう無かった。
「神前!見捨てるのか?テメエ!」
しかしこの二人に関わるとろくなことがないだろうと思えてきたので、誠はそのまま要を見捨てて実働部隊執務室へと入った。
「仲が良いのか、悪いのか」
そう言って笑うカウラ。部屋の中では外の三人の漫才をはらはらしながら見つめている渡辺の姿があった。




