魔物の街 53
誠達が捜査と言う名の散歩をはじめてから一週間の時間が流れた。いつの間にか世間は師走の時期に入り、地球と同じ周期で遼州太陽の周りを回っている遼州北半球の東和も寒さが厳しい季節に入った。ランが指定した建物の調査と言う名目で訪問した建物は100を超えたが、誠もカウラも法術研究などをしているような施設にめぐり合うことは無かった。そもそも調査した建物の半分が廃墟と言ったほうが正確な建物だった。5年前の東都中央大地震の影響で危険度が高まり放置された廃墟の内部構造の様子と生活臭がありそうなごみの山を端末で画像に収めながら歩き回るのが仕事だった。
その日もいつものように液状化で傾いたため放棄された病院の跡地の調査を終えて、車に戻った誠にカウラが缶コーヒーを投げた。熱いコーヒーを手袋をした手で握りその温度を手に感じる。
「ありがとうございます」
そう言うと誠は缶コーヒーのプルタブを開けた。
「やはりここも外れだな」
寒さにも関わらず冷たいメロンソーダを飲んでいるカウラのエメラルドグリーンのポニーテールを眺めていた誠に自然と笑みが浮かんだ。
「何か良いことでもあったのか?」
ぶっきらぼうに答えるカウラの視線につい恥ずかしくなって誠は視線を缶に向けた。
「それにしても島田先輩達は何をしているんでしょうね」
ランと要が租界の中で研究用の法術適正者を探して活動しているだろう志村三郎を追っていることは知っていたが、茜が仕切る別働部隊が何をしているのかは誠は知らなかった。
「ああ、嵯峨警視正達は出資者を追っているはずだぞ」
カウラの言葉に誠も納得が行った。政府のように無尽蔵に金を捻出して研究成果を求めることの出来ない以上、必ずこの研究には出資している人物がいると言うのもわかる話だった。そしてそう言うことになれば保安隊には最適な人物がいる。
ハッキングが趣味と公言してはばからない第一小隊の吉田俊平少佐。だが彼でも閉鎖されたシステムの調査まではできるわけが無い。その為に閉鎖システムに枝をつけて本部の吉田が瞬時にチェック、そのあとすぐにシステムの閉鎖の処理を行う。危険とはわかっていても令状の発行が期待できない以上それ以外の方法は無い。
「誰が最初に当たりを引くかですね」
何気なく言った誠の一言にカウラが頷いた。海からの強い風が車の冷えたボディーに寄りかかっていた二人をあおる。
「中で飲もう」
そう言うとカウラはドアを開ける。誠も助手席に座って半分以上残っている暖かいコーヒーを味わうことにした。
「でもこんな研究の成果を誰が買うんでしょうね」
その言葉に冷めた表情で同じ事を言うなと言っているように誠を見つめるカウラがいた。
「ただ自爆するだけの兵器よりは効率的に法術を発動して混沌状態を作り出せる兵士を製造する。それを所持していると言うことを内外に示せればそれなりの抑止力にはなるだろ?数百年前の核ミサイルと同じことだ」
カウラの言葉にも誠は納得できなかった。法術の発動が脳に与える負荷については保安隊の法術関連システムの管理を担当している技術部のヨハン・シュペルター中尉から多くのことを聞かされていた。
「急激な法術の展開を繰り返せば理性が吹き飛ぶかもしれませんけど。そうなれば誰もとめることができない」
ヨハンの受け売りの言葉をつぶやいた誠。だが彼の前には感情を殺した表情のカウラの姿があった。
「その時はこれまでどおり爆弾として使う。それにいったんノウハウを把握できれば再生産が可能なのは私達『ラストバタリオン』の製造で分かっていることだ」
そう言うとカウラはメロンソーダを飲み干してその缶を握りつぶした。




