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魔物の街 48

「ああ、アタシの方か?」 

 そう言うとランの視線は自然とどんぶりを手にしている要の方を向いた。茜は何かを悟ったとでも言うようにそのまま自分の湯飲みを握り締める。

「民間人の協力者を一人見つけたな。そんだけ」 

 吐き捨てるように一言だけ言った要は、立ち上がって自分の湯飲みがあるカウンターの隣の戸棚に向かって遠ざかった。

「駐留軍。感心するくらい腐ってたな。あれじゃー情報も金次第ってところだが……予算はねーんだろ?」 

 ランの言葉に茜は苦笑いを浮かべる。戸棚から自分の湯飲みを持ってきた要がやかんを手にすると冷えた番茶をそれに注いだ。自分の湯飲みだけを持ってきて番茶を勢い良く注ぐ要。そんなときの彼女は不機嫌だと言うことはこの場の全員が知っていたので食堂は重い雰囲気に包まれる。

「研究の目的がはっきりしているんだから組織としてはそれなりの体をなしていると考えると、誰も知らないなんていうのが不自然ですよね。どこかに糸口があるはずじゃないですか」 

 そう言ったのはアイシャだった。誠はそれまで要に遠慮して隣の席から頬などを突いてくる彼女を無視していたがその言葉には頷くことが出来た。

「そうですわね。今回あの租界で拉致された人物が大量に居るという事実。そして監禁してそれで終わりってわけじゃないのですから。法術関係に詳しい研究者。法術暴走の際に対応する法術師。そしてその実験材料に使われる人材の確保をする人。それがあの近辺に潜伏しているとなればどこかで話が漏れていると考える方が自然ですわ」 

 茜はすぐに要を見つめた。手に湯飲みを持ったまま、呆然と天井を見つめている要。だが、彼女も茜の言葉を聞いていたようで一口湯飲みに口をつけるとそれをテーブルに置いて話し始めた。

「携帯端末、持ってんだろ?それを出してみろ」 

 要の言葉に茜の隣のラーナが素早くかばんから比較的モニターの大きな端末を取り出す。その後ろに島田とサラが移動して覗き込む格好になった。誠はアイシャが取り出した端末を覗き込んだ。

 画面には志村三郎の画像とデータが表示されている。

「この男。東都の人身売買組織の一員だ。これまで誘拐容疑で三度、人身売買容疑で二度逮捕されているがどれも証拠不十分で起訴は免れている。まあ、どこで金をばら撒いたのか知らねえが、最近かなり羽振りが良いらしいや」 

 そう言うと要はタバコを取り出して火をつける。画面はすぐに東和でも有数の指定暴力団のデータに切り替わる。

「大物が出ましたわね」 

 苦々しげにつぶやく茜。その言葉に不敵な笑みを浮かべると要は話を続けた。

「どの事件でも共犯者には東都の暴力団の組員が上げられてる。まあ東都の中に商品を運ぶとなれば協力者としては最適の相手だからな」 

「でもこれは臓器取引とか売春組織なんかの関係の取引でしょ?法術の研究なんて地味で利益が出るかどうか分からないようなことやくざ屋さんが協力してくれるのかしら」 

 皮肉るようにアイシャがつぶやくが、タバコをくわえた要はただうつろな瞳で天井に向けて煙を吐くだけだった。

「まあな。だからあたしは直接あの男のところに出向いたわけだ」 

 その言葉に誠は疑問しか感じなかった。そんな誠をちらりと見た要だが、後ろめたいことでもあるとでも言うように目をそらして、タバコの煙を食堂の奥へと吐いた。

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