魔物の街 49
すぐに端末の画像が切り替わった。要の脳はネットワークに直結している。こうしてタバコをふかして無駄に天井を見上げているように見えても彼女は情報を管理していた。
「無線周波数の一覧。それと乱数表……でもこれって軍用周波数帯での交信じゃないの?そしてこの周波数帯は……」
「遼州じゃバルキスタン政府軍ぐらいじゃねーか?もしかしてあの店で……」
ランの鋭い視線が要を見つめる。先月バルキスタンの内戦鎮圧に出動した記憶が誠の頭をよぎる。要は椅子を後ろに倒してテーブルに足を乗せた。
「西園寺!」
「まあ、カウラちゃん抑えてよ。それよりこの周波数帯でどこと連絡していたか。そこまで掴んでるの?」
アイシャの言葉を聞くと要はにやりと笑った。そしてタバコを手に再び天井を見上げる。同時に画面が切り替わる。
「同盟機構医療監視財団?」
誠の言葉に茜は驚いたように顔を上げた後、ラーナの端末に目を移した。
「同盟厚生局の出先機関か……ずいぶんと大物が出てきたじゃねーか」
そう言って小さなランは頭をかいて苦笑いを浮かべながら天井を見たままの要を見た。
「近藤事件以降、法術系の情報の開示を担当していたのが同盟機構の厚生局健康医療関連部門だったな。その出先となればそれなりの人材や情報を抱え込んでるのは当たり前か。それで……おい!」
カウラはそう言うと立ち上がって要の肩に手を乗せた。バランスが崩れた。そのまま要はカウラの体重を受けて後ろに倒れ、思い切り後頭部から床に落ちた。
「何……しやがんだ!」
「ああ、済まん」
「済まんじゃねえだろうが!」
後頭部を押さえて立ち上がる要を見てサラが噴出すのが見える。誠も笑顔で再び画面を見つめた。
「住所が港区港南?」
湾岸地区と都心の中間に当たる地域であり、再開発が行われて工事車両が行き来している地域である。
「ビンゴだな」
ランはそう言うと茜を見つめた。だが、茜は納得がいかないような表情で画面を見つめている。
「ちょっと安直過ぎないかしら。いくら通信に特殊な設定が必要な軍用周波数帯の電波での情報のやり取りをしているからってあまりにもこれ見よがしにすぎないんじゃなくて?」
「まあそうなんだけどよー、とりあえず糸口にはなるだろ?まったく無関係なら情報のやり取りをする必要もねーだろうし事情を知っている人間の首に縄でもつけれれば御の字だ」
そう言ってランは立ち上がる。
「クバルカ中佐?」
誠は椅子から降りてちょこちょこ歩き出したランに声をかける。
「なんだよ!シャワーでも浴びようってだけだよ」
「お子ちゃまだから9時には寝ないとな」
いつもの軽口を吐いた要を一にらみするとランは手を振って食堂を後にする。
「じゃあ私も今日は3本あるから」
立ち上がったのはアイシャだった。他の全員が彼女の言うのがチェックしているアニメの数であることを納得して静かに立ち去る彼女を生暖かい視線で見送った。




