魔物の街 47
寮の廊下。ピコピコハンマーが転がっているのを見つけた要は、それを手に食堂に先行する。そして茜と談笑していたアイシャの背後に回りこむと力任せにその頭にピコピコハンマーを振り下ろした。
「痛い!」
その馬鹿力でピコピコハンマーが首からねじ切れて床に落ちる。食堂には茜とラーナ。島田とサラは隣のテーブルで仲良くしゃべっていたがその様子に驚いたように要を見た。
「悪り、ゴキブリかと思った」
頭を押さえるアイシャに無表情にそう言うとカウンターに向かって歩く要。
「何すんのよ!ったく……痛いよー誠ちゃん!」
そう言ってあまりの出来事に呆然としていた誠にすがりつくアイシャ。その頭にカウラがチョップを振り下ろす。
「何よ!カウラちゃんまで!」
アイシャの叫びを無視して通り過ぎていくラン。
「クバルカ中佐も!みんなで無視して!」
「無視しているわけじゃないんですけど」
叫ぶアイシャに仕方なく誠がそう言って彼女の頭を撫でる。話を中座させられた茜とラーナが苦笑いを浮かべている。
「何かあったみたいですね」
島田がカウンターで大盛りの白米だけを盛ってかき込み始めた要に声をかけるが、要は無視してそのままテーブルの中央に置かれていた福神漬けをどんぶりに盛った。
「あったみたいね」
隣でカレーを食べていたサラもその要の奇行を眺めているだけだった。
「で、そちらの首尾はどうなんだ?」
カレーを盛ってきたランがそう言って茜の正面に座る。明らかにご飯の量が異常に多いのはランが辛いものが苦手だということも誠は知ることが出来ていた。
「正直芳しくはないですわね。管轄の警察署や湾岸警察、海上警備隊の本部にも顔を出して情報の共有を計る線では一致したんですけど……」
「租界に絡むことは同盟機構軍の領域だから駐屯軍に聞いてくれって煙にまかれたわけだ」
どんぶりを置いた要の一言。茜は力なく頷いた。
「でも嵯峨捜査官もがんばったんですよ!警察とかの資料の閲覧の許可も取りましたし、専任捜査官を指定していただけるということで……」
「ラーナ。オメエ、アマちゃんだな。口約束なんていくらでもできるぜ」
どんぶりにやかんから番茶を注ぐ要。その行動に明らかに違和感を感じたサラと島田は身を小さくしていつでも逃げられるような体勢をとった。
「でも!」
「そうですわね。資料の閲覧許可は向こうに断る理由が無かっただけですし、専任捜査官の選定権限はあちらにあるんですもの。その選定がいつ行われるか、どのような人材が選ばれるかは私達ではどうすることも出来ませんわ。結局は私達だけでなんとかしないといけない状況は変わりませんわね」
湯飲みを傾け少し口を湿らすような茜。カレーを盛ってくれたカウラから受け取り誠は静かにさらにスプーンを向ける。
「それでクバルカ中佐の方はいかがなのかしら」
茜の言葉にランは辛さに耐えるというように顔をしかめながら、サラから受けとった水で舌をゆすいでいた。




