魔物の街 44
「で?西園寺。アタシになつかしの遼南うどんを食べさせるって言うだけでここに来たんじゃねーんだろ?」
三郎が席を外しているのを見定めてランがそうつぶやいた。
「今回の事件の鍵は人だ。そして人を集める専門家ってのに会う必要があるだろ?」
明らかに表情を押し殺しているように見える要のタレ目。その視線が決して誠と交わらないことに気づいてうつむく誠。
「そう言うことでしょうね。そりゃあそうだ」
聞き耳を立てていた三郎が引きつるような声を上げた。
「俺は専門家ってわけじゃないですが、今は俺がここらのシマの人夫出しを仕切っているのは事実ですよ」
そう言うと三郎はぞんざいに誠の前にコップを置いた。
「人の流れから掴むか。だが信用できるのか?」
手に割り箸を握り締めながら三郎を見つめるカウラ。だが三郎の視線が自分の胸に行ったのを見てすぐに落ち込んだように黙り込んだ。
「失敬だねえ。一応ビジネスはしっかりやる方なんですよ。外界の法律が機能しないこの租界じゃあ信用ができるってことだけでも十分金になりますから」
そう言ってタバコを取り出した三郎。
「こら!できたぞ」
店の奥の厨房でうどんをゆでていた三郎の父と思われる老人が叫ぶ。仕方がないと言うように三郎はそのままどんぶりを運んだ。
「外へ出るための書類の管理もオメエがやってるのか?」
受け取ったきつねうどんを手にすると要はそのまま三郎を見上げた。
「俺も一応出世しましてね。わが社の専門スタッフが……」
「専門スタッフねえ、舎弟を持てるとこまできたのか」
要はそう言うとうどんを啜りこむ。今度は誠も無視されずに目の前にうどんを置かれた。
「ああ、そうだ。同業他社の連中の顔は分かるか?」
一息ついた要の一言に三郎の顔に陰がさす。そしてそのまま三郎の視線は誠を威嚇するような形になった。
「ああ、知ってますよ。ですがいろいろと競争がありますからねえ」
「それで十分だ。さっきお前の通信端末にデータは送っといたからチェックして返信してくれ」
あっさりそう言うと要はうどんの汁を啜る。昆布だしと言うことは遼南の東海州の味だと思いながら誠も汁を啜った。
「まじっすか?あの頃だって店の連絡先しか教えてくれなかったのに……ヒャッホイ!」
いかにもうれしそうに叫んだ三郎が早速ポケットから端末を取り出した。
「馬鹿なこと言ってんじゃねえよ!これは仕事だ。それにそいつは仕事の用の端末だからな。落石事故かタンカーが転覆したときに連絡するのもかまわねえぞ」
要はそう言って一気にどんぶりに残った汁を啜りこんだ。




