魔物の街 40
「これは……また。ゲットーと呼ぶべきだろうな」
それまで運転に集中しているかのようだったカウラのつぶやきも当然だった。外の港湾地区が崩れた瓦礫の町ならば、こちらは刑務所か何かの中のようなありさまだった。時々屋台が出ているのが分かるが、一体その品物がどこから運び込まれたかなどと言うことは誠にもわからない。
「まあアタシもここができてすぐに来たんだけどな。まああのころは何にも無い埋立地に仮設テントとバラックがあるばかり。こうしてみるとその時代の方がまだましだったかもな」
そう小声でランがつぶやくのが聞こえる。
「そう言えばクバルカ中佐は遼南出身でしたよね」
誠の言葉にうんざりした顔を見せるラン。
「まあな、共和軍にいた人間は人民政府樹立で逃げ出すしかなかったわけだし。追放の対象だったアタシはまだましな方さ。自力でここにたどり着いた連中が暮らしを立て直そうとしたときには胡散臭い連中がここに街を作って魔窟が一つ出来上がった。そしてその利権をめぐり……」
「アタシ達のような非正規任務の兵隊さんがのこのこやってきてその筋の方々に武器を売って大戦争を始めたってわけだ」
苦笑いを浮かべる要。建てられて十年も立っていないはずなのに多くのビルの壁には傷が走っている。所々階段がなくなっているのは抗争の最中に小銃の掃射でも浴びたのだろうか。そう思う誠の心とは無関係に車は走る。
「カウラ、ちょっと止めな」
要は突然そう言う。カウラがブレーキを踏んでまっすぐ行けば港に着くという大通りの路肩に車を止めるとすぐにどこから沸いたのか兵隊が駆け寄ってくる。
「南方諸島か」
要の言葉を聞いて身を固める誠。都市型のグレーの戦闘服の袖に派手な赤い鳥のマークの刺繍をつけている兵士達はそのまま銃を背負って車の両脇に群がる。
「トマレ!」
窓を開けた誠に銃を突きつけて叫ぶ南方諸島の正規軍の兵士。誠は後ろの要に目をやるが、要もランもただニヤニヤ笑いながら怯えた様子の誠を見つめているだけだった。
「カネ、カネ!トウワエン!イチマン!」
兵士がそう言うと要は爆笑を始めた。それに気づいた若い褐色の肌の兵士が車のドアに手をやる。壊されると思ったのかカウラはドアの鍵を開けた。
「要さん!勘弁してくださいよ!」
そう言ってそのまま引き出された誠は路上に這わされる。そしてすぐに兵士は誠の脇に拳銃があるのを見つける。そのままにんまりと笑い銃を突きつける兵士とそれをくわえタバコで見ていた下士官が後部座席で爆笑する要とランに銃を向けている。
「ケンジュウ、ミノガス、30マン!30マン」
「ずいぶん相場が上がったもんだな!」
そのまま無抵抗を装うように車から引き出された振りをする要とラン。下士官は良い得物を見つけたとでも言うようにくわえていたタバコを地面に投げ捨てる。
「30万円?ずいぶんと安く見られたもんだ。じゃあこれで手を打ってもらおうかな」
ランはそう言うと再び身分証を取り出して下士官に見せる。そしてランの左手はすでに拳銃の銃口を下士官の額に向けていた。タバコを吸いなおそうとした下士官の口からタバコが落ちる。彼はそのまま誠の後頭部に銃口を向けていた部下の首根っこを押さえて誠の知らない言葉で指示を出した。
兵士が突然銃を背負いなおし、青い顔で誠を見つめる。
「カネ、カネ、30マン!」
兵士の言葉の真似をして手を出す要を見つめると今にも泣き出しそうな顔で走り去っていく兵士達。
「良い勉強になったろ?これがここの真実さ」
そう言うと要はそのままポケットからタバコを取り出して火をつけた。




