魔物の街 39
「面白いものが見れたろ?」
そう言うと要は満面の笑みを浮かべながらタバコを取り出した。本部にはいつの間にか中から武装した兵士が出てきて入り口を固めている。それを面白そうに眺めた要はそのままタバコに火をつけて歩き始めた。
「ディスクは置いてきたが良いのか?」
カウラの言葉に要とランは目を合わせて笑顔を浮かべる。
「だからわらしべ長者なんだって。あのデータはあそこの検問の外ではそれなりの意味を持つが、あそこをくぐって租界の中に入ってしまえば麦わら一本以下の価値しかない。証拠性が消滅するんだよアイツ等の手に渡るとな。奴等は狼少年だからな、何を言っても誰も信用してくれない。賄賂を取って国に家でも建てれば別だが」
そう言って要はタバコをくわえたままカウラの赤いスポーツカーの屋根に寄りかかって話はじめる。同盟軍組織の一部、こう言う二線級部隊の腐敗はどこにでもあると言うように、要は時折振り返って兵士達に笑顔を振りまく。
「じゃあ何の意味が?」
そうたずねた誠に手にした端末の画面を要は見せた。次々と画面がスクロールしていく。良く見つめればそれはある端末から次々に送信されているデータを示したものだった。
「あいつらでも多少はコイツの存在が気になるんだ。さっそくあのリストと出所と思われるところに連絡を入れて事実関係を確認中ってところかな。後はあの連中が連絡をつけた糸をたどっていけばどこかに昨日見た連中の製造工場があるだろうって話だ」
そう言うと要はタバコを投げ捨てる。検問の兵士ににらみつけられるが要は平然とドアを開けてそのままランと組んで車に体を押し込む。
「それじゃあ今日はこれで終わりですか?」
助手席の椅子を戻して乗り込む誠を要とランが呆れたような目で見つめる。
「馬鹿だな。オメエ等がこの租界の流儀を知らねーのは分かってんだ。とりあえず入門をアタシ等が担当してやるよ」
そう言うとランは端末のデータを車のナビに転送した。
「このルートで走れって事ですか?」
カウラは租界の外周を回るような順路を見た後そのまま車を出した。
外の湾岸再開発地区よりも租界の中は秩序があるように見えた。しかし、それが良く見れば危うい均衡の上にあることは誠にもすぐに分かった。四つ角には必ず重武装の警備兵が立っている。見かける羽振りのよさそうな背広の男の数人に一人は左の胸のポケットの中に何かを入れていた。それが恐らく拳銃であることは私服での警備任務を数回経験した誠にも分かる。
「今でこの有様だったら東都戦争のときはどうなってたんですか?」
思わずそんな言葉を吐いた誠を大きなため息をついた要がにらむ。
「なに、もっと静かだったよ。街もきれいなものでごみ一つ落ちて無かったな。なんといっても外に出たらどこからか狙撃されるんだから」
そう言って笑う要。確かに今見ている街には人の気配が満ちていた。大通りを走るカウラの車から外の路地を見ると必ず人影を目にした。子供、老人、女性。あまり青年男性の姿を見ないのは港湾の拡張工事などに人手が出ているからだろうか。
「空気の悪いのは昔からか?」
ランが要を見つめる。
「そりゃあしょうがねえだろ。こんな狭いところに50万人の人間が閉じ込められているんだ。呼吸だけで十分空気が二酸化炭素に染まるもんだ。もっともアタシはここの空気は嫌いじゃないがね」
そんなことを良いながら外を眺める要だが、その表情が懐かしい場所に帰ってきたような柔らかい笑顔に覆われていることに誠は不思議な気持ちに鳴った。




