魔物の街 37
巨大な障害物で半分ふさがれた道。その脇では黒い街宣車が大音量で租界の中に暮らしている遼南難民の罵倒を続けていた。カウラの車はすぐに胡州陸軍の制服を着た兵士に止められる。ヘルメットに自動小銃と言うお決まりのスタイルの兵士は大音量を垂れ流すバスの群れに目をやりながら停止したカウラの車の窓を叩いた。
「通行証は?」
そう言う兵士にカウラは保安隊の身分証を見せた。二人の兵士は顔を見合わせた後、後部座席を覗き込む。
「同盟司法局がなんの用ですか?」
「バーカ。捜査に決まってるだろ?」
ランの顔を見てにらみつける兵士だが、すぐに彼女が身分証を取り出して階級を見せ付けると明らかに負けたというように一人はゲートを管理している兵士達に向かって駆け出した。
「ああ、別に中に入るのが目的じゃねーんだ。部隊長の顔を拝みたくてね」
そんな言葉を吐く幼女を引きつった顔で見つめる兵士はそのまま無線に何事かをつぶやいた。
「とりあえず警備本部もゲートの奥ですから」
兵士の言葉を聞くとカウラはそのままバリケードが派手な入り口を通り過ぎてゲートをくぐる。ゲートの周りは脱走者を防止するために完全に見晴らしの効いた場所になっており、ゲート脇の塔には狙撃銃を構える兵士、ゲートの脇の土嚢の中には重機関銃を構えている兵士が見える。カウラはそのまま塔の隣に立てられた警備本部の前に車を止めた。
「さてと、わらしべ長者を目指してがんばるか」
要はそう言うと端末から先ほど手にしたディスクを取り出した。誠はその言葉の意味が分からずにランに後頭部を突かれて仕方なく車から降りる。
「しかし殺伐とした場所だねえ」
彼女の言葉も当然だった。もし暴動が起きればゲート脇の土嚢から重機関銃の掃射が始まり、武装した難民がいたとしても装甲を張り巡らせた鉄塔の上からの狙撃で簡単に制圧されることは間違いなかった。さらに明らかに過剰防衛を行いかねないと言うような感じで本部の裏を見るとさすがに機体は配備されてはいないようだがアサルト・モジュール用のハンガーまで用意されている。
「物々しいというより過剰防衛の気配があるな」
呆れる誠の肩を叩きながらカウラが本部へ向かう要とランについていくように誠に知らせる。
「あのー、わらしべ長者って?」
誠の声に呆れたような顔の要が振り向く。ランはそのまま警備本部の入り口のドアにたどり着いた。
「早くしろよ!」
そう急かされて早足になる誠。それを見たランはそのまま本部に入った。誠が遅れて建物に入ると怪訝な表情の胡州陸軍勤務服の兵士達が入り口に目を向けた。
「保安隊の方ですね!」
その中で一人の将校がさわやかな笑顔を撒き散らしながらランに近づいてくる。
「広報担当か……気に食わねーな」
ぼそりとつぶやくランに表情を崩すことなくその中尉は闖入してきた誠達を迎えた。




