魔物の街 36
「買ったのはそっちの方でこちらはダミーか」
カウラはそう言うとバックミラーを使って自分の青く染まった舌を確かめた。
「当たりめーだろ。何のためにアタシが芝居をしたと思ってんだ」
「あれが芝居か?」
ランの言葉に苦笑いを浮かべながら要は後頭部からコードを伸ばして携帯端末に直結してデータディスクを差し込んだ。
「オメー等も端末出しとけ」
ランの言葉にカウラもアイスを外に捨てた。誠はもったいないので最後まで食べる。
「ちょっと待てよ。プロテクトを解除する……よし」
要の言葉が途切れると誠の端末からも数字が並んでいる表を見ることが出来た。
「あのう……」
それは奇妙に過ぎる表だった。端末に写っているのは臓器の名前と個数。心臓、肝臓、腎臓、網膜。その種類と摘出者の年齢、血液型、抗体など。延々とスクロールしても尽きない表が続いていた。
「司法警察に持ち込めば警察総監賞ものだ。もっともこのデータを買ってくれる親切な人のところに持ってった方が金になるだろうが」
ランがそう言うのも当然だった。
「でもこれって……」
「租界に流れ込む難民の数と、出て行く難民の数。発表されて無いだろ?人間の使い道がこの土地じゃあ他とは違うんだ」
要の言葉に誠は悟った。臓器売買のうわさは大学時代から野球部と漫画研究会の二束のわらじで忙しい誠の耳にも届いてきていた。当時は臓器売買だけでなく薬物や武器までこの租界とその近辺を流れているという噂もあった。そして誠が軍に入るとその利権をめぐり他国の工作部隊が投入されていると言う情報が事実だとわかった。そして同盟軍の治安維持部隊も賄賂を取ってそれを見逃しているという別の噂を耳にすることになった。
武器の輸出規制が強まり、薬物の末端での取締りが強化されるようになって、それでも上納金を求める暴力団や賄賂を待つ治安維持部隊に貢ぐ資金を搾り出すために行われるといわれる人身売買。都市伝説と思っていたものが事実であると示すような一覧が手元にあった。
「そんなに驚くこともねえよ。胡州だってこの租界に派遣されているのは三流の部隊だ。地獄の沙汰もなんとやら、要するに見て通りのことが行われているってことだ」
誠はただ呆然と画面をスクロールさせる。
「でも法術師の研究とは関係ないんじゃないですか?」
「他の画面も見てみろ……ってここじゃあ場所が悪いな。カウラ、車を出せ」
ランが端末のモニターをにらみながら指示を出す。車はそのまま路地を走り出した。
「このまま租界に入るぞ。検問の同盟軍の駐留地まで行け」
そのまま画面をスクロールさせていく誠。ようやく一番下まで来ると次の画面に移るためのカーソルが開いた。次の画面はさらに誠の顔をしかめさせるものだった。それはこれまでの文字だけの世界とは違うリストが表示されていた。
それはまるでペットか何かのように子供の写真と値段が表示される画面。
「おっと二ページ目か。まあ見ての通りだ」
思わず吐き気に口を押さえた誠を冷ややかに突き放すようなランの一言。車内の空気はよどんだ。
「カウラ。とりあえず窓を開けてやれよ」
淡々と要はそう言うとデータを読み終えてコードを首から外した。




