魔物の街 35
誠は周りの景色を見て、以前誘拐された時の記憶がよぎるのを感じていた。
犯人が所属していた暴力団組織は全員射殺された誘拐犯達が独走して誠を誘拐してヨーロッパ系のシンジケートに売り渡そうとしていたと証言した。そして肝心のシンジケートからは証言らしいものは引き出すことができず、捜査は中座していると茜からは聞かされていた。
見回す町並み。ビルは多くが廃墟となり、瓦礫を運ぶ大型車がひっきりなしに行きかう。
「カウラ、そこを右だ」
要の声にしたがって大通りから路地へ入る。そこは地震の一つでもあれば倒壊しそうなアパートが並んでいる。ベランダには洗濯物がはためいてそこに人が暮らしていることを知らせていた。道で遊んでいた子供達はこの街には似合わないカウラのスポーツカーを見ると逃げ出した。階段に腰掛けていた老人も、珍しい赤い高級車を見て興味を感じるのではなく、何か怪しげな闖入者が来たとでも言うように屋内に消えた。
「ここ、本当に東和ですか?」
誠の声に要が冷ややかな笑みを浮かべていた。
「まあこんなところに新車のスポーツカーに乗ってやってくるのは借金取りくらいだろうからな。それとも何か?オメエは歓迎してくれるとでも思ったのかよ」
皮肉を口にして笑う要。まだ人が住んでいると言うのに半分壊されたアパート、その隣の一杯飲み屋には寒空の中、昼間から酒を煽る男達が見える。酒を片手ににごった視線を投げてくるこの街の住人達は要の言うようにこの町の人々は誠達を歓迎すると言うより敵視しているように見えた。
「東都のエアポケットって奴だ。政府はここの再開発の予算をつけたいらしいが見ての通り開発の前に治安をどうにかしないとまずいってところだな」
ランは目をつぶったままじっとしている。
「おい、そこのパチンコ屋の看板の角で車を止めろ。アイスでも食いたいだろ?」
突然の要の言葉に誠は絶句した。
「あの、もう冬ですよ!アイスなんか……」
「いいから止めろ」
要の真剣な目にカウラも要の指定した場所で車を止める。
「アタシと中佐殿で行くからな」
「なんでアタシなんだ?」
「駄菓子屋と言えば餓鬼だろうが」
そんなやり取りに誠は助手席から降りながらいつものようにランが要を叱り飛ばすと思ったが、ランはなぜか黙って要とともに降りると駄菓子屋に向かった。
「こんなところなら非合法な研究を堂々としていても誰も気にしないと言うことか」
カウラはそう言いながら周りを見た。シャッターを半分閉めて閉店しているかと思っていたパチンコ屋から客が出て行く。誠もこの界隈が普通の東和、発展する東都から見捨てられた街であることが理解できた。
「しかし……あれを見ろ」
そう言うカウラの顔が微笑んでいるのを見て、誠は彼女が指差す駄菓子屋を見た。どう見ても小さな女の子にしか見えないランが要に店の菓子を指差して買ってくれとせがんで要のジャケットのすそを引っ張っている光景が見える。
「芝居が過ぎるな」
カウラの微笑む顔を見て誠も頬を緩めた。要はランの頭をはたいた後、店番の老婆に話しかける。老婆はそのまま奥に消え、しばらくして袋を持ってでてそれを要に渡した。要は財布から金を出して支払いを済ませるとそのまま誠達のところに歩いてきた。
「待たせたな」
誠が助手席を持ち上げて後部座席に座ろうとする要とランを迎え入れる。要は袋からアイスキャンディーを取り出すとカウラと誠に渡した。
「なんだ?ずいぶんと毒々しい色だな」
カウラは袋を開けて出てきた真っ青なキャンディーに顔をしかめる。誠もその着色料と甘味料を混ぜて固めたようなアイスを口に運んだ。
「こんなものなんで札で勘定を済ませたんだ?」
口の中に合成甘味料の甘さが広がる。そして吐き出された誠の言葉に、要は袋の中から一枚のマイクロディスクを取り出して見せた。




