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魔物の街 33

「ほう、出かけてったねえ」 

 隊長室からカウラの車を眺めながら保安隊隊長、嵯峨惟基特務大佐は頭を掻いていた。

「良いんですか?フォローしなくて」 

 思わず情報統括担当、そして実働部隊第一小隊三番機担当である吉田俊平少佐がそう言うと嵯峨は死んだ魚のような目で吉田を見つめる。

「それがあいつ等のお仕事なんだから。駄目だよー、ちゃんと自分に与えられた任務は着実に果たす。仕事きっちり。これ大事なんだから」 

「そうおっしゃるなら……この『高雄』の母港移設にかかる予算の見積書がなんでここに突き返されてきたのか説明いただけますか?」 

 長身の穏やかなブルーのきっちりとまとまったショートカットの妙齢な女性、保安隊運用艦『高雄』艦長の鈴木リアナ中佐の言葉に嵯峨は困ったように眉間にしわを寄せる。

「そんなこと言ったってさあ、司法局の連中がさあ……」 

「必要資料の連絡ミスってつまらないことをするなんて隊長らしくないんでは?それとも隊長は現在の新港まで車や輸送機でハンガーの機体を運ばなければならない現在の状況に満足されているんですか?」 

「分かった!分かりましたから!勘弁してください!」 

 あくまでにこやかな笑みを絶やさず嵯峨に説教を始めようとするリアナを黙らせると再び窓の外に目を向けた。そこには嵯峨の娘の茜が自分のセダンにアイシャ達が乗り込むのを眺めているところだった。

「それはさておいて。安城さんの機動部隊、茜の法術特捜、そしてうち。一番評価が低いのは法術特捜だからな。今回は金星を上げてもらいたいんだよ」 

 その言葉に吉田は頷いた後、嵯峨の執務机のモニターを開いた。嵯峨は相変わらず北風を浴びながら外を眺めている。

「今回はどろどろしてそうな事件だが大物は関わっていないだろうからな。まあ俺等と同じ木っ端役人か……町のチンピラか……まあいずれは潰す必要のある連中のいたずらってところか?」 

 吉田がその言葉にキーボードを操作する手を止める。リアナは嵯峨の不謹慎な発言に大きくため息をついた。

「なんだよ、見せたいものがあるんじゃないのか?」 

 その言葉を聞くと嵯峨の顔を見て恥ずかしそうに笑った後、吉田はそのまま作業を続ける。

「偶然なんですよね。たぶんこれは撮った方も撮られた方も気づいてはいないと思いますし、証拠としては使えない資料なんですが……」 

「え、何があるの?」 

 リアナが机の隣で突っ立っている嵯峨を押しのけてモニターを見つめる。そこには労働関係の役所の資料であることを示す刻印のある中層ビルの崩れた鉄骨の写真があった。吉田はその一角、鉄骨の合間に見える外の光景を拡大していく。長髪の男が映っていた。

「へー素敵な人じゃない」 

 素直にそう言うリアナとは違って嵯峨は明らかに渋い表情を浮かべていた。

「確かに資料にならねえな。これがこの前クバルカ達を前に法術のデモンストレーションを見せた悪趣味な奴か?確かに悪趣味そうな面だわ」 

 そう言って嵯峨はリアナの方を軽くつつく。

「ああ、引き出しですか?」 

 リアナがよこにどくと嵯峨はそこから三枚の写真を取り出す。

「同じ人物ですわね」 

 リアナはそこに映る長髪の男をじっと見つめた。

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