魔物の街 32
ランに続いて要が後ろの席に座り、運転席にはカウラ、誠は助手席に座ることになった。
「ベルガー。出る前にちょっといいか?」
ランの言葉にハンドルから手を離して振り向くカウラ。誠もそれに合わせてランを見つめる。
「疎開はアタシと要が担当する。神前の始末は頼むぞ」
「なんだってこんな餓鬼の……」
普段は本当に小学校低学年の少女にしか見えないランだが、その元々にらんでいるような目つきが鈍く光を発したときには、中佐と言う肩書きが伊達ではないというような凄みがあるのは誠も知っていた。
「租界じゃ名の知れた山犬がうろちょろするんだ。恨みなら山ほど買ったんだろ?東都戦争のときに。そんなところに素人を送り込めるかよ」
ランの口元の笑みが浮かぶ。要はちらりと誠を見てそのままそっぽを向いた。東都警察も匙を投げたシンジケートや利権を持つ国々の非正規部隊の抗争劇『東都戦争』の舞台となった東都租界と言えばすぐに『胡州の山犬』として知られたエージェントの要が幅を利かせるのは当然のことだった。
「カウラ、気をつけとけよ。現在も潜伏している工作員もいるだろうからな。それに今回の超能力者製造計画をたくらむ悪の組織……」
「ふざけるなよ、バーカ」
誠の特撮への愛を知っている要のリップサービスにその頭をはたくラン。
「まあトラブルになる可能性はアタシ等の方が大きいんだからな。お前らはとりあえず予定した調査ポイントでアタシの指示通りに動いてくれりゃあそれでいい」
まるで期待をしていないようなランの言葉を不快に思ったのかカウラはそのまま正面を向き直り車のエンジンをかける。
「そう気を悪くするなよ。相手は法術師を擁している可能性が高けーし、正直神前はあてにならねーし……」
「そうだな、コイツはあてにならねえな」
要にまでそう言われるとさすがに堪えて誠も椅子に座りなおしてシートベルトをした。
「いじけるなよ。即戦力としては期待はしてねーけど将来は期待してるんだぜ」
ランのとってつけたような世辞に頭を掻く誠。カウラはそのまま乱暴に車を発進させる。
「姐御、カウラは結構根にもつから注意したほうが良いですよ」
「そうなのか?」
囁きあう要とランをバックミラー越しに見ながらカウラはそのまま車を正門ゲートへと向かわせる。
いつものようにゲートには警備部の歩哨はいなかった。カウラはクラクションを派手に鳴らす。それに反応してスキンヘッドの大男が飛び出してくる。
「緊張感が足りないんじゃないのか?」
いつもなら淡々と出て行くカウラにそう言われて面食らう大男。
「すいません……出来ればシュバーキナ少佐には内密に」
手を合わせるスキンヘッドを見下すような笑みで見つめた後、開いたゲートから車を急発進させるカウラ。
「確かになあ。根に持ってるわ」
ランは呆れたように車を走らせるカウラを眺めていた。




