魔物の街 31
まさにチョコチョコと先頭を歩いて進むランを誠は萌える瞳で見つめていた。
「おい、さっきから目つきが怪しいぞ」
今度はわき腹を突く要。カウラは呆れたようにため息をつく。
「おう!ちょっと任務で出かけてくる!しばらくは連絡や報告は携帯端末にしてくれ」
実働部隊の部屋に顔を突っ込んでランが叫ぶ。明らかに青ざめた顔の楓以外が敬礼を返すのが見えた。そしてその隣では先ほどの虫を頬張っているシャムがいる。
「シャムもしつこいねえ。また楓に喰わせたな、ゾウムシの幼虫。でも本当にアイツは苛めたくなるよな!」
うっとりとした表情で吐き気に耐えている楓を見つめる要。その怪しげなタレ目の輝きに思わず誠は一歩下がる。
「貴様のせいなんじゃないのか?」
ニヤニヤしながらランに続いて進む要にカウラが呆れたと言うようにそう言った。管理部の部屋では一人、背広姿で外のラン達を見つめている部長の高梨渉参事が見える。その調子はどこかランの一行がまた予算を無駄に使うと思って警戒しているようにも見えた。
「やはり他の隊員にも秘密なんですね」
誠の言葉に真剣な表情でランが振り向く。
「例のかつて人間だったものを公開するわけか?パニックが起きるだけだな」
そう切り捨ててそのまま階段を下りるカウラ。
「お出かけですか?島田班長に用があるんですけど」
降りてきたランに整備の若手のホープである西高志兵長が声をかけてくる。
「ああ、追加資材の発注だろ?権限は現状ではシンプソン中尉に委譲中だ。島田は別任務で動く」
「はあ、そうですか」
ランの言葉に西はそのまま建物の奥の技術部の倉庫に走っていく。
「でもどうするんだ?明華の姐御が帰ってくるまでデカ乳が現場を仕切れるとは思えねえんだけどな」
そう言って要が笑う。技術部にアメリカ海軍から出向してきているレベッカ・シンプソン中尉と言えばその豊かな胸で知られていた。それにどちらかと言えば打たれ弱く、パニックに陥っているイメージが誠にもあって要の言葉ももっともなように聞こえた。
「一応仕事なんだからさ。たまには将校らしく毅然とした態度をとってもらわねーとアタシも困るんだよ」
ランはそのまま整備員達から敬礼される中を進んでグラウンドに出た。
「それと明日の日曜の練習は中止になるかな」
誠の顔を見ながらランがそう言った。保安隊野球部。ランの先任の明石清海中佐が部長を務めていた。
秋の大会でもダークホースと呼ばれ、誠の左腕で都市対抗を目指していた部活動だが、部長の明石が去り、以前のように練習することは少なくなった。異動により明石がこの基地のある豊川に来れるのは本部勤務が無い土曜日と日曜日。だが最近は今日のように婚約中の保安隊技術部部長の許明華大佐と結婚関連の打ち合わせで練習が出来ない日も続いていた。
「まあ仕方ないな」
グラウンドを眺めてカウラがそうつぶやく。ハンガーを出て山から吹き降ろす北風に身が凍えるのを感じながら誠はランに続いて正門へと向かった。
そこにある鉄柱には鎖がつながっていてその先にはシャムの友達であるコンロンオオヒグマの子供、グレゴリウス13世がいた。
「飯はねえぞ」
一言要がそう言ったのを見て怒ったようにうなり声を上げる。
「西園寺。熊と同レベルで喧嘩してどーすんだよ!」
思わず笑みをこぼしながらランはカウラが遠隔キーであけたスポーツカーの助手席のドアを開き、助手席を倒して後部座席に身を沈めた。




