魔物の街 10
奥のには金庫の扉のようにも見えるものが鎮座している。迷うことなく進む茜。彼女はそのまま扉の横のセキュリティーにパスワードを打ち込む。
「ここまでは一般向けのセキュリティーか」
要はそう言うと開いていくドアの中を伸びをして覗き込む。そんな要を冷めた目で見ながら茜はそのまま中へと歩き出す。
無音。ただ足音だけが聞こえている。
「遅れるんじゃねーぞ。全員のパスワードが次のセキュリティー解除に必要だからな」
ランの言葉に思わず手を握り締めた誠。彼の後ろでは観光気分のサラとニヤニヤしている島田がついてきていた。そして30メートルほど歩いたところで道は行き詰るかに見えた。しかし、すぐに機械音が響き、行き止まりと思った壁が開く。
「ずいぶん分厚い扉だねえ。なんだ?化け物でも囲ってるのか?」
軽口を叩く要を無視して茜は歩き続ける。
「わくわくしない?神前君」
後ろからサラに声をかけられるが誠はつばを飲み込むばかりで答えることが出来なかった。
カウラは通路の壁を触ったりしながらこの場所の雰囲気を確認しようとしているようだった。要は後頭部で両腕を組みながらまるで普段と変わりなく歩いている。アイシャは首が疲れるんじゃないかと誠が思うくらいきょろきょろさせながらアトラクション気分で歩いていた。
そして再び行き止まりにたどり着く。
「おい、島田。もっとこっちに来い!パスワードがそろわねーだろ!」
ランがそう言って最後尾を歩いていた島田を呼ぶ。彼がサラにくっつくようにやってきたとき再び扉が開いた。
「次で目的地ですから安心してくださいね」
笑う茜。誠は何を安心すれば良いのかわからず握り締めていた刀に目をやった。
「あの、嵯峨捜査官……」
誠は静かにそう言って手にした刀を茜に見せる。茜はそれを見てにっこりと笑う。
「そうですわね。とりあえず袋から出しておいた方がよろしいのではなくて?」
茜の言葉に誠は刀の袋の紐を解いた。
「へー、そう言う風な結び方なんだ」
珍しそうに誠の手元に目をやるアイシャ。
「別に決まりなんて無いですよ。ただ昔から普通に……」
誠の言葉が出る前に通路の奥で不気味なうなり声のようなものが聞こえた。
「やっぱり怪獣を飼っているのか?」
笑いながらそう言って要は茜の前に出て歩き始めた。




