魔物の街 9
「ごらんいただければわかりますわ」
それだけ言うと茜は黙り込んだ。その突然の沈黙に誠の好奇心は再び不安に変わった。エレベータのドアが開いて一同は乗り込む。最後に乗ったラーナがエレベータにポケットから出したキーを差し込む。
「隠し部屋ですか。さらに厄介だ」
島田の一言にランの鋭い視線が突き刺さる。驚いた島田はそのままサラを見てごまかした。動きだしたエレベータの中。浮いたような感覚、そしてすぐに押しつぶそうとする感覚。パイロットの誠には慣れた感覚だが、それがさらに不安を掻き立てる。
そして当然のようにドアが開いた。薄暗い廊下。壁も天井もコンクリートの打ちっ放しで、訪れるものの不安をさらにかきたてる。あえて救いがあるとすれば若干の人の気配がするくらいのことだった。
廊下に出た茜に続くと、誠はそこで白衣を着た研究者のような人達が行き来する活気に心が救われる思いだった。
「人体実験でもやっているのかねえ」
要の無責任な言葉に茜が振り向いて棘のある微笑を浮かべる。要はそのまま後ろに引っ込みカウラの陰に隠れた。
「これは……嵯峨警視正」
到着したのは生物学の実験室のような部屋。遠心分離機に検体を配置している若い女性研究者の向こうの机に張り付いていた頭の禿げ上がった眼鏡の研究者が茜に声をかけた。
「例のものを見に来ましたわ……それと処理も」
研究者があまりにも研究者らしかったのがおかしいとでも言うように噴出しかけた要を一瞥した後、茜はそう言って巾着からマイクロディスクを取り出す。
「そうですか。失礼」
そう言うと眼鏡の研究者はそれを受け取り手元の端末のスロットにそれを差し込んだ。画面にはいくつものウィンドウが開き、何重にもかけられたプロテクトを解除していく。
「なんだよ、ずいぶん手間がかかるじゃないか」
要はそう言いながら部屋を見渡した。
「サンプル……人間の臓器だな」
カウラの言葉に誠は改めて並んでいる標本に目を向けた。いくつかはその中身が人間の脳であることが誠にもすぐにわかった。他にもさまざまな臓器のサンプルがガラスの瓶の中で眠っているように見える。
「ちょっと、そこ」
明らかに緊張感の無い様子でアイシャがつついたのは島田の手にしがみついているサラを見つけたからだった。
「ランちゃんは……平気なの?」
島田から引き剥がされたサラがランを見下ろす。
「オメーなー。アタシが餓鬼だとでも言いてーのか?」
そうランが愚痴った時、ようやく研究者の端末の画面がすべてのプロテクトの解除を知らせる画面へと切り替わった。
「それでは参りましょう」
茜はそう言うといつものように緊張感の無い誠達に目を向けた。




