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七十七頁目 凱旋、ローザロッサ


お待たせして申し訳ない。

騎空士をしたりマスターをしたりしてました。

あと指揮官もやってました。


「お、おお……帰ってきたか!」


 ダンジョンの帰還用転移魔法陣を利用してローザロッサに帰って来たオレ達を迎えたのは、物々しい、百人以上はいるであろう甲冑の騎士達と、その陣頭に立つシグナート伯爵の、そんな言葉だった。

 涙目になりながらこちらに来て、オレの右手を取って両手でしっかり握りながら何度も力強く頷くシグナート伯爵。

 ……はて? ダンジョンに潜る事は通達してあったはずなんだが、この物騒な迎えはなんなんだ?


「……あの、シグナート伯爵? 感極まっているところを申し訳ないのですが、この物々しいのは一体なんなのでしょう?」

「……はっ。あ、ああ、すまない。これは、まあ、今となっては不要となったが、ホオズキ男爵一行の救援部隊だ」

「私共の、ですか? 失礼ながら、伯爵。私は日時の感覚は人より優れたものを持っていましたが、ダンジョンというある種の閉塞的な空間で感覚が狂ってしまったようなのです。差し支えなければ、私共がダンジョンに入ってどれほどが経過しているのでしょう?」

「うむ。君と私が話し合った翌日には既に潜っていたと聞くから、大体一ヶ月といったところだ」

「一ヶ月、ですか」


 正直、もっとかかってると思ってた。もう半月か一ヶ月くらい。

 まあ、ゴーレム狩りの時間が長かったし、本当ならもう少し早かっただろうけども。


「流石に私も、一ヶ月も帰ってこないのでは危ないと思って私兵を投じる事になったのだが……いやなに、無事で何よりだ」

「ご心配をおかけしました、シグナート伯爵。騎士の皆様も、お手間を取らせました。セツカ・ホオズキとその一行。無事に帰還致しました」

「ああ、よく帰って来てくれた」


 シグナート伯爵のその言葉に、騎士達が諸手を挙げて雄叫びをあげる。

 申し訳ないな、と思う反面、少し気恥ずかしくて苦笑しながら視線を動かすと、どこか見覚えのある少女の姿が目に入った。

 その少女は目が合うと正しくこちらを認識したようで、タタタッと小走りで駆けてきて、その勢いのままオレの胸に飛び込んできた。


「……っとと。突然飛び込んで来るとは、大胆ですね、お嬢さん?」

「わ、私だって、時には大胆になります!」

「それはそれは。以前お会いした時はもう少し淑やかな女の子だと思っていたのですが、認識を改める必要がありますね」

「是非そうしてください」

「そうしましょう。……ところで、何故ローザロッサに?」

「貴方からの手紙が来ないので、心配になって私から出向きました」

「……すみません。見ての通り、ダンジョンに潜っていたものですから」

「はい。なので、お手紙に関しては不問とします」

「ありがとうございます。……少し、背が伸びましたね、エリーナ王女」

「貴方はより逞しくなられたようですね、ホオズキさん」


 悪戯っぽい笑みを浮かべながら、エリーナ王女はそう言う。

 そして、更に近付いてくる人影に気付き視線をやれば、それは王城のメイド長であり王女付きのミラさんで、会釈をして対応すると微笑みで返された。

 冷静でありながらどこか違和感を覚える眼だったが、まあ、気にしなくていいだろう。


「……それで、ホオズキ男爵。ダンジョン攻略の方は、どうだったね?」

「ええ。……シグナート伯爵。私が貴方との会話の際に、最後に言った言葉を覚えていらっしゃいますか?」

「あ、ああ。確か、次に会う時は『竜殺し』になっているかも知れない、と……まさか!?」

「ああ、いえ、残念ながら『竜殺し』にはなれなかったのですが――」


 そこで言葉を切って、近くにあった適当なスペースにインベントリから、魔王から奪っ……貰った竜の頭を取り出す。

 奪ってない。断じて奪ってない。

 出てきた場所がたまたま、たまたまオレの無限倉庫(インベントリ)の範囲だったから回収しただけ。

 別に魔王から強奪したとかではない。


「――最下層の竜の頭と身体は持ち帰りました」

「……これが、百層に居るという竜の頭だと?」

「はい」

「ホオズキ男爵は、これと戦わなかったのか?」

「ええ。というのも、百層のボス部屋に入ると、自らを魔王と称する少女がいまして。その竜は、彼女に斃されていました」

「魔王!?」

「魔王ですって!?」

「幸いにして戦わずに帰って来られましたが。いやはや、噂の竜はいないわ、魔王なんて名乗る少女はいるわで、二重にビックリしました」


 今言っても仕方ない事ではあるが、『異世界のドラゴンをこの眼で見られる!』と年甲斐もなくワクワクに踊ったオレの心を返して欲しい。

 この先はボス部屋だから、と一日休息を取って準備を万端にして臨んだのに。

 返せよ! 返してくれよ、オレのザビー……じゃなくて、子供心!


「ですがホオズキさん、貴方は――」

「しー……っ」


 唇に人差し指をあてて『静かに』のジェスチャーをして、エリーナ王女にだけ聞こえるようにして『私が勇者なのは秘密です。要らぬ騒ぎを生みますから』と言っておく。

 王城で話したエリーナ王女のままなら、この理由に納得して黙っていてくれるだろう。


「ともあれ、竜とは戦わずに帰って来ましたから、事前の準備も無駄になってしまって、無傷での帰還です。疲労は……まあ、少なからずではありますが」

「うむ……まあ、無傷での帰還は喜ぶべきか、死闘の痕跡すらないのを残念がるべきか……。とにかく、今日はもう休む方が良いだろう。せっかく買った自宅だ。ゆっくりすると良い」

「では、お言葉に甘えさせていただきましょうか。シグナート伯爵も、可能であればゆっくりとなさってください」

「ああ、そうさせてもらおう。……もっとも、ローザロッサ初となるダンジョン踏破者の話が、どこまで私を暇にさせないかに寄るがね」


 ニヤリとした笑みを口元に称えながら、シグナート伯爵は言う。

 そういえば、Sランクパーティでも六十五層が限界だったんだもんな。


「まあ、すぐに収まるでしょう。話は遠方まで伝播するでしょうが、激しく燃え上がると何故か鎮火も早いものです」

「そうだな。……もし数日中に収まらなければ、ホオズキ男爵にも鎮火を手伝ってもらうとしよう」

「……意地が悪いですよ、シグナート伯爵」

「はっはっは! 騒ぎの中心にいるのだから、それくらいはして貰わねばな!」

「なるほど、責任重大ですね。……さて。とりあえず、シエスタはお返しした方が?」

「いや、良ければ男爵のところに置いてやって欲しい。何せ、オルトーラの英雄と共にダンジョンを踏破した人間だ。他の十傑衆も合わせて、ひとところに集まっていた方がいいだろう」


 口元のニヤつきを隠しもしないままにシグナート伯爵が告げる。

 このオッサン……騒ぎを分散させないで楽をしようって魂胆だな? それを隠そうともしていない辺りが実に喰えない。

 それに、あわよくばシエスタがオレを射止めれば、とも考えているんだろう。まあ、その場合はシエスタの好意がどういうものなのかが肝要だが。あんな事を言ってしまったから、逃げられないんだよなぁ。


「……まあ、いいでしょう。その笑みは見なかった事にしておきますよ、シグナート伯爵」

「うん? 私はただ、君達が無事に戻ってきて嬉しいだけだが?」

「そういう事に。……では、我々はこれにて。何かあれば屋敷の方までお願いします」

「ああ、覚えておこう」

「はい。エリーナ王女やミラさんはどうされますか? そもそもこちらでの滞在先などは……」

「エリーナ様は現在シグナート伯爵邸に滞在されていますが、差し支えなければホオズキ様のご自宅に伺っても?」


 エリーナ王女が答えるより先に、メイド長ミラが告げる。

 ……そうか、シグナート伯爵のとこにいたのか。王族の歓待なんて、気が気じゃないだろうなぁ……心中お察ししますよ、シグナート伯爵。


「では、恐縮ではありますが、私の自宅に招待いたしましょう。少し歩きますが、構いませんか?」

「私は問題ありません。元々歩くのは好きですから」

「私も問題はありません。エリーナ様の供をして、毎朝歩いておりますし」


 そういや日課だって言ってたな、早朝の散歩。

 オレとは違って楽しげな日課で羨ましい。


「それならば早速行きましょうか。では、シグナート伯爵。我々はこれにて」

「ああ。ゆっくりすると良い」


 最後にシグナート伯爵に一礼をしてから、冒険者や傭兵、街の人や騎士なんかでごった返したダンジョン前から離脱する。

 いやはや、まさか救援部隊が組織されるほどだったとはなぁ。オレは一応貴族だし、シエスタ達は間違いなく貴族令嬢なんだから、やっぱり途中で帰っておくべきだったかな。

 とは言っても、ダンジョンの踏破……それも初回踏破ってのはロマンだ。我が儘とは言え、こればっかりは優先させたいもんで。

 まあ、経過日数は予想の内だったけど、救援部隊の組織は完全に予想外だった。本当はもっとかかってる感覚だったし、終盤は一旦帰るかとも考えたが……やっぱオレも男だからな。ロマンには勝てなかった。


「……な、なあなあ、セツカよう」


 救援部隊の事やダンジョンの事についてぐるぐる考えていると、ダンジョンでは定位置だったオレの右隣をエリーナ王女に取られたシルヴィが左側から小声で話し掛けてきた。


「どうした?」

「いや、その、セツカって何者なんだ? 王女様と知り合いなんて、普通じゃないだろ」

「……まあ、色々あってな。機会があれば教えるよ」

「自称魔王に勇者とか呼ばれてたのが関係してんのか?」

「んー……まあ、無関係ではない、かもな」

「なんだよ、それ」

「まあまあ。今日はとにかくゆっくりしよう。見た感じではわからなくても、疲労は確実に溜まっていくものだからな。最悪知らず知らずに死ぬから、休息は大事だぞ」

「…………絶対話せよ」

「……約束は出来ないな」


 参ったなぁ。魔王の出現に王女の来訪と重なったせいで、勇者である事実から逃げられそうにない。

 大体、魔王や魔族が問題視されてる理由も不明だし、敵対するに足る理由をオレが確認するまで、魔王側も人間側も黙っててくれねえかな。

 そうすれば向こう五十年くらい平和そうだし。


 ……とにもかくにも疲れたな。

 あんまりわからないが、身体の動きが少し鈍く感じる。気のせいかも知れないが。

 シグナート伯爵の言う通り、今日はもうゆっくりしよう。疲れを溜めるのは良くない。

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