七十三頁目 無属性魔法と専門外の指南
シルヴィに教えを説いてからしばらく、ふと、キャスタリアに訊く事があったなぁ、なんて思い出して話を振ってみる。
「なあ、キャスタリア。ちょっといいか」
「? はい? なんでしょうか?」
オレより後ろの方で、ルキナと魔法や魔力について話していたのを遮ったので眼で謝っておきながら、早速キャスタリアに質問を投げる。
「キャスタリア。魔法の基本属性は地水火風の四つに光闇無の三つで、七属性だよな?」
「はい。基本魔法と呼ばれる魔法の属性は地、水、火、風、光、闇、無属性の七つですね」
「うん……だよな。オレは一応、地から闇までの六属性を扱えるんだが……無属性魔法だけは習得してなくてな。キャスタリアは、無属性の習得の方法とか、あるいは無属性魔法の使い手とか、そういうの知らないか?」
まあ、キャスタリア自身が無属性魔法を習得していない以上は、習得方法は望むべくもないだろう。
そうなると無属性魔法の使い手を教えて欲しいところだが……。
「……すみません、セツカさん。私も無属性魔法がなんなのか、使い手はいるのか、いるのならどうすれば習得出来るのかを探してはいるのですが、鳴かず飛ばずでして」
「そうか……。いや、いいんだ。もしかしたら知ってるかな、と思っての事だったし、知らない事を無理に聞こうとは思ってない。どうしても欲しいってわけでもないしな」
「力になれずにすみません。……ですが、一つ。噂の域を出ないのですが、情報がありますよ」
「……聞かせてくれ」
「はい。なんでも、無属性魔法というのは、通常の魔法のように魔力を媒体にして現象を発現させる魔法ではなく、魔力そのものを操る……つまりは、魔力操作の延長であると言われているようですね」
魔力操作の延長……?
そもそも魔力操作というのは、魔法の規模の調整とかそういうのに使われる、魔法使いには必須の技術……というか、スキルだ。
わかりやすく言えば、例えば火魔法で火球を出したとして、それを大きくしたり小さくしたりするのが魔力操作だ。
無属性魔法はそれの延長……なんとなく想像出来るが、多分、魔力を手や足のように使うのが無属性魔法なんだろう。
一種のエスパーだな。分類的には、地球人なら間違いなく『念動力』と答える代物だと考えられる。
「魔力操作の延長か……。魔力を手足みたいに動かせれば良いのか?」
「わかりません。無属性魔法について記述がある文献は、未だどの国でも見つかってないようです。それ故に、もしかしたら無属性魔法など存在しないのではないか、とする派閥もあるようです」
「なるほど。だが、魔力操作の延長だという話はあるわけか」
「そうですね。それというのも、普通、魔法と言えば人の眼や耳に理解出来る形で発現するものです」
「まあ、そうだな。闇魔法は……まあ、見えなかったり聞こえなかったりするのもあるが」
揚げ足を取るようで申し訳ないが、闇魔法は生き物の精神に働きかける魔法が多い。
というか、それがメインだ。
日本人的には催眠術とか洗脳とかって言った方がわかりやすいんだけど、眠らせたり、発狂させたり、鬱にしたり、心神喪失させたり。そういうのが闇魔法だ。
一部では悪辣で非道な属性魔法だと言われているらしいが、そんなのは使い方次第だ。
「ただ、無属性魔法はそれがまったく無いので、あるいは魔法ではないとされているようで」
「それで魔力操作の延長って言われてるわけだな。まあ、見えないものをそれだと証明するのは難しいから仕方ない」
「ええ。私も試してはいるんですが、明確な理論があるわけではないので、なかなか難しくて」
「……なるほどね」
キャスタリアは文献を読んだりして知識を深めてから試行に入るタイプの人間か。
オレはどちらかと言えば身体で覚える感覚タイプの人間だから、あの時の氷魔法の教え方で大丈夫だったのか不安だな。
まあ、割合なんて理論ありきの考え方だし、そこそこ伝わってたみたいだから大丈夫か。
「セツカさんは、無属性魔法を……?」
「あー……まあ、なんというか、性分でな。せっかく無属性以外は習得出来てるんだから、完全に基本魔法を習得したいとは思ってる」
この辺の完璧主義っていうか、コンプリートしたがる精神は、完全に日本人のものだよなぁ。好きな漫画の単行本を買ってて、途中が抜けてるとモヤモヤする……みたいな。
「…………ん?」
なんて事を考えていると、ふとこちらに注目している視線に気付いた。それを辿ってみるとオリヴィエ、ミストス、ロゼのもので。
多分、オレがシエスタやシルヴィ、キャスタリアにだけ色々話してるのが面白くないんだろうな。彼女達には手解きみたいなのはしてないし。
「なぁ、セツカよ。アタシにもそういうのはねぇのかよ?」
ほら来た。
けどなぁ……ミストスは鞭なんていう特殊な武器だし、オリヴィエはレイピア系の刺突特化武器だから、手解き出来ないんだよな。
ロゼはまあ、大剣術と格闘術を合わせて教える事は出来るんだが。
「ミストスは武器が特殊だからな……正直専門外なんだ。蛇腹剣なら教え様もあったんだが」
「蛇腹剣?」
「連接剣とも言われるな。見た目はそのままロングソードだが、刃が何個にも分かれてて、時に剣として、時に鞭として扱える武器だ。ちょっと特殊だが、近中距離での戦闘が可能だな」
一部界隈ではガリアンソードとかアイヴィーブレードとか呼ばれてるらしいが。
「それ、面白そうだな!」
「鞭みたいな非殺傷武器じゃないぞ?」
「別にいいけど?」
「…………なんで魔導鞭を使ってるんだ?」
「周りで使ってる奴がいないのが魔導鞭だけだったんだよ」
ミストスは『何か変か?』とでも言いたげな表情で告げる。
……ああ、なるほど。ミストスはアレだ。あるコンテンツに対して、周囲や大多数の人間が盛り上がってると、逆に盛り下がるタイプなんだ。
その気持ちはちょっとわかるな。
『なに盛り上がってんだ、こいつら』って冷めた眼で見ちゃうんだよな。
「セツカさん、わたくしには何かありませんの?」
「レイピア系の武器は使った事がなくてなぁ。むしろ、オレよりもオリヴィエの方が詳しいんじゃないか?」
「……で、でしたら! 何か、その、戦い方の指南でも構いませんから!」
「そう言われてもな……」
仲間外れにされたとでも考えているのか、随分と焦った様子のオリヴィエ。
ただ、彼女の戦い方は、ある意味確立されていると言ってもいい。レイピアの弱点も強みも理解しているように見えるし、そういう意味ではシエスタの次くらいには強い……かも知れない。
まあ、十傑衆男性陣の正確な力量がわからないから、十傑衆全体だとちょっとわからないけども。
「……あ、でも、そうだな。それじゃあ、一つ助言というか……指南をしよう」
「お願いいたしますわ!」
「お願いされよう。……さて。オリヴィエはレイピアによる刺突攻撃が戦闘の基本だな? 他に攻撃手段は?」
「魔法を少々……。火と風に適性があります」
……なんでちょっと見合いっぽい言い方なんだ。
「火と風か……。風魔法を併用して、超高速機動戦闘とかアリかもな。止まる時は火魔法を進行方向と逆に噴射するとか」
と、思い付いた事を言ってみる。
するとオリヴィエは眼を輝かせ……しかし即座に反応したのはキャスタリアとルキナだった。
「「それ、詳しくお願いします……!」」
確かな決意を感じたのは、言うまでもないだろう。爛々と光る四つの瞳に寄られてちょっと怖かったのは内緒だ。
「あ、ああ……まあ、いいけど。次の戦闘まで待っててくれ。今見せても見本にすらならんだろうし」
学者肌の人間って、どうしてこう、言い知れぬ恐怖を放つ事が出来る奴ばっかりなんだろうな。オレの兄姉にも似たようなのが何人もいたから、ある程度なら耐性もあるんだが、しかし恐怖をかんじないわけじゃないからな。
まあ、キャスタリアやルキナが喰い付くのは魔法の話だけだろうし、物理戦闘の話をしておけば回避…………うん? 物理戦闘の話をしたら、シルヴィやライカが喰い付くのでは?
……なるほど、これが『詰み』ってヤツか。
よし、しばらく黙ってよう。




