六十五頁目 ボス部屋前での休息
スレッジオークを倒した事でドアのロックが解除されたようで、開けて外に出ると、心配の色を隠す事なく顔に出した通路警戒班に思いっきり心配された。
まあ、小部屋に入ったと思ったら魔法でも物理でもない方法で閉じ込められて、そのまま小一時間も出てこなかったら、そりゃ心配するか。
ちなみに、宝箱の中身は刀だった。
残念ながら刀を扱えるのはオレかユキヤくらいしかいなかったので、暫定的にオレが受け取る事になった。
まあ、それでなくても無限倉庫持ちはオレしかいなかったから、荷物持ちは基本的にオレなんだけど。
「しっかし、なんだって小一時間も入ってたんだ?」
「いやぁ、それがな?」
ミストスの『何してたんだ、お前ら?』と言いたげな顔を見ながら、小部屋で起きた大討伐活劇を話してやる。
ああ、まったく、本当に疲れた。
知能レベルの低い畜生だったから良かったものの、あれがそれなりの知能を有して、戦術的な行動でも取ってたら危なかった。
畜生は畜生だが、最悪死を覚悟していたかも知れない。
「――というわけでな」
「そんな事がありましたのね……」
「召喚系の魔法陣と上位種の召喚……。悔しいですが、中々考えられたトラップですね」
「しかし主、本当にドアからは魔力が検知出来なかったのですか?」
「ああ、まあ……。そっちはどうだったんだ? 色々試してくれたんだろ?」
「そうですね、解呪や解錠の魔法を試しましたけど、効果はありませんでした」
「私も攻撃してはみましたが、びくともしませんでした。不甲斐なく、申し訳ありません、マスター」
「気にするな。オレ達だって試したけど無駄だったしな」
つまりあのドアは、単純なドアロックや魔法による施錠ではなく、もっと超常的な……ダンジョンの意志とも呼べるもので封じられていたのだろう。
まさか、同じタイミングで攻撃してたから開かなかったとか、ドアを開ける為のスイッチやレバーが外側にあったとかじゃないだろうしな。
……まさかな!
「……師匠。壁にスイッチ。多分、ドアを開ける用のスイッチ」
ちくしょうめ! やってくれたなダンジョン!
「……なあ、普通ダンジョンの最終層には何があるんだ?」
「ええと……そのダンジョンの最終ボスとダンジョンコアでしたかしら?」
「このダンジョンのダンジョンコア、壊してもいいか?」
「「「ダメ」」」
シエスタ、シルヴィ、ミストスの三人から抗議の声が上がる。なんで?
シルヴィとミストスは……まあ、多分腕試しの意味合いが強いだろうけど、シエスタは本当になんでだ?
「……トラップが多いと罠解除スキルが育つ」
「なるほど」
まあ、普通はトラップなんて仕掛けられてないだろうし、そうなるとダンジョンは良い修行場所なんだろうな。
「……それにしても、随分戦ったのね。休憩しておく、あなた?」
「オレは平気だが……どうだ?」
宝箱回収班に尋ねてみると、みんなしっかりとした表情で頷いた。つまり、休憩しなくて問題ないという事だ。
もう少しでこの階層も踏破出来るだろうし、それを考えると、いっそ踏破してしまおうという考えなのかも知れない。
実はそろそろ日付変更が近いんだけど、黙っておく事にしよう。
「外にいたみんなも問題ないか?」
一応確認をとってみるが、返ってきたのはしっかりとした頷きだけだった。まったく、頼もしいパーティだよ。
それにしても……なんでだろうな?
こっちの世界に来てからというもの、どうも女性とばかり仲良くなっているような気がする。
一緒にバカやれる男友達とか欲しいんだけどな。まあ、ダンジョン踏破するまで我慢だな。
「よし、じゃあ行くか。なに、あと半分なんだ。これまでの事を考えれば楽なもんだろ」
「いや、わかんねえぞ? 予想外の事ってのは、大体にして起きるもんだ」
「やめてくれよ、ミストス。縁起でもない」
「ですが、油断出来ないのは確かですわね」
「……ん。六十五層以上は未知の世界」
「主。慎重過ぎるくらいで丁度良いかと」
「……わかった、オレが悪かった。確かに油断は出来ないが、余裕は持とう」
戦場で余裕を無くせば、不用意な行動を招く。
よく『頭はクールに、心はホットに』なんて言い回しがあるが、実際その通りだ。
心は燃やしつつ、頭は冷静にして余裕を持たせないと、不用意な行動だけでなく敵の対処にまで影響が及ぶのだ。
まあ、今いるメンバーにそういう心配は要らないとは思うが、オレは遊撃的な動きに回った方がいいだろうな。
「じゃ、行軍を再開しよう。ミラードールとの戦いも楽しみだしな」
「……あなた、実は戦闘狂だったりしない?」
「しないしない。…………多分な」
じっとりとした視線を向けてくるアナを涼やかにスルーして、通路を今来た方へと戻る。
今来たって言うか、一時間前に来た、が正しいけども。
◆
「……で、ここがそうか?」
「はい、ここが五十層のボスであるミラードールのいる部屋です」
小部屋での戦闘からおよそ一時間半ほど歩き、オレ達はそこにやってきていた。
キャスタリアには見覚えがあるであろうドア、その前に。
ちなみに、本当ならキャスタリアが道順を覚えていたのでこんなに時間をかける必要はなかったのだが、オレのRPG脳が騒いで、全ての分岐路を通って宝箱を回収するなり、行き止まりにがっかりするなりしないと気が済まなかったんだ。
現代に生きるゲーマーか、生粋のマッパーなら理解してくれる事だろう。
「さて……どうする?」
「どうするったって、挑むんじゃないのか? 私はそのつもりだったけど」
「アタシもだ」
「マスター、行きましょう」
「待て待て。お前達、緊張状態だから気付いてないかも知れないけどな、そろそろメシ喰って寝る時間なんだよ」
オレの体内時計によれば、今は大体二十二時を少し回ったくらいの時間だ。
休憩を取ったと言えば取ったが、しっかりした食事と睡眠を摂らなければ、ボスに挑もうと言うのに不安が残ってしまう。
ここは翌日に予定を回して、万全な体調を作っておくべきだろう。
「まあ、実際の夕食の時間にはかなり遅いが、それでも身体を休めるのと休めないのとでは大違いだ」
「そうですね、セツカさんの言う通りです」
「……ん。お腹空いた」
「だがなぁ……すぐそこなんだぜ? パパッと倒して休めば良くないか?」
どうやら、ミストスは今のうちに倒してしまって、何を気にする事なく休みたいらしい。
「んー、まあ、ミストスの言いたい事もわかるんだけどな。ただ、ほら、うちは子供が多いからな。休ませてやりたい」
「うっ……」
「……ミストス、私らの負けだ。体調を万全にしておくのも冒険者の務めだよ」
「……わかった、わかったよ。チビ達に無理させんのはアタシの本意じゃないしな」
照れ臭そうに頭を掻きながら言うミストス。
普段の口調こそ乱暴なものがあるが、意外に子煩悩というか、子供が好きなのかも知れないな。
嫁にするならミストスみたいな女性がいいのかね。まあ、オレの好みとはちょっと違うが。
でも、ミストスみたいな女性が嫁ってのは、それはそれで楽しいのかもな。
……いや、いかんいかん。今は色恋より冒険。嫁だの婚約だのは、また考えればいいんだ。
「じゃあ、ここで一夜を明かすって事で問題ないな?」
最後の確認を取って、肯定が返ってきたのを確認して夜営道具一式をインベントリから取り出す。
明日はいよいよ五十層のボスか。
ミラードール……一体どんな奴なんだろうな。




