三十七頁目 貴族になる鬼の子
「この度はおめでとうございます、ホオズキ殿」
エリーナ王女への返事を書き終え紅茶を飲みつつのんびりしていると、コルティア子爵がメルトール男爵と紋章官と呼ばれる人を連れてやってきた。
そして、メルトール男爵は何故か、開口一番『おめでとう』と言う。
はて、何がめでたいのだろうか?
「ええと……メルトール男爵? 一体何がめでたいんだ?」
「男爵位を叙爵されるという事以外に何かあるとでも?」
「ああ……なるほど」
貴族になれば貴族としての義務が発生するから、あんまり嬉しくはないんだが。
まあ、わざわざ言うことでもないし、素直に、言葉だけは受け取っておこう。
「まあ、ホオズキ殿は私と同じ名誉男爵位だがね」
「男爵位じゃなかったのか?」
「それなんだが、コルティア子爵に聞けば面倒事は嫌だって言うじゃないか。だから、義務の発生しない一代限りのお貴族サマというわけさ」
「メルトール男爵の入れ知恵か?」
「なに、単純にホオズキ殿の心情を考慮した結果さね。コルティア子爵は武人としては一流だが、こういう事には弱くてね」
それは十分に承知している。
まあ、だからこそメルトール男爵が執政官として屋敷にいるのだろうが。
「さて、それじゃさっさと家名を決めてしまおうかね。考えてみたかい?」
「考えるまでもない。家名はホオズキだ。そもそもオレの故郷では、貴族だとか平民だとか関係なしに家名を名乗る事が出来るからな」
「へえ? だとすると、ホオズキ殿の本当の名前はなんだい?」
「セツカだ。セツカ・ホオズキ。それがオレの名前だ」
「……ふむ。まあ、悩むまでもなく家名が決まってるのは、私としてもありがたいからね。早速始めようか?」
「始める?」
「ああ。『今ここに、新たなる名を定める。彼の者の名はセツカ……セツカ・ホオズキなり』」
それは、魔法の発現。
契約魔法の一部らしく、契約の時よりは少し淡い紅の光がオレの身体を包み込んでいく。
とは言っても、特に何か変化があるわけではない。そこはやはり契約魔法と同じで、役目を終えたのだろう紅の光は、スッと消えていく。
とりあえず何が変わったのかを確認するために、先刻の魔物の軍勢を殲滅した際のレベルアップで機能が拡張されたステータスウインドウでステータスを確認する。
【名前】 セツカ・ホオズキ
【種族】 人族、鬼
【職業】 武芸者
【称号】 オルトーラの英雄
【所属】 ロガ王国コルティア子爵領
【階級】 男爵
【年齢】 21
【レベル】121
【HP】 9682/9682
【MP】 9573/9573
【STR】 9265
【DEF】 9018
【INT】 8928
【MR】 8871
【DEX】 9101
【AGI】 9055
【スキル】 真実の瞳、無限倉庫、超聴覚、投擲マスタリー、天駆、縮地、神速、潜影、魔導師マスタリー、拳闘士マスタリー、剣術マスタリー、刀術マスタリー、家事マスタリー、広域探査、気配感知、気配断絶、敵意感知、舞踊、舞踏、歌唱、魔力制御、魔力操作、鍛冶、冶金、錬金術、錬成術、話術、詐術、芝居、速読、読解、手加減、全状態異常耐性、全属性耐性、物理耐性、真偽看破
【固有スキル】 明鏡止水、鬼神ノ力・暝
これがインフレ……。超早熟タイプというヤツか。
メッセージログを全く確認していなかったが、『真実の瞳』などの変わっているスキルは昇華したスキルのようだ。
そしてこのステータスウインドウ。他人に見られる場合の情報の公開、非公開が選べるようになったらしい。
レベルは公開するけどスキルは非公開、なんて事が出来るようになったという認識で間違いないみたいだ。
この『鬼神ノ力・暝』ってのは、なんだ?
【鬼神ノ力・暝】
未だ眠ったままの鬼神の力。
任意の発動が可能であり、眠ったままではあるが、発動すれば『威圧』スキルを遥かに凌駕する威圧を放つ事が出来る。
威圧自体の強弱は調整可能。
――覚醒の時には、今はまだ早すぎる。
最後のフレーバーテキストが気になるが、概要は理解した。
以前あった『鬼ノ力』みたいにステータスブーストはないようだが、これはこれで使える固有スキルだろう。
「……どうしたね、ホオズキ男爵。ボーッとしちまって」
「ああ……いや、なんでもない。少し考え事をしてただけだ」
とりあえずレベルから下の項目は全部非公開にしておこう。わざわざ他人に見せるものでもないしな。
「さて、次は紋章だ。貴族としての身分証明みたいなものだから、しっかり決めな」
「紋章……家紋って事か」
悩むまでもないだろう。
家紋にしたって、家名と同じだ。
「決まってるなら、この紙に描きな」
そう言ってメルトール男爵が差し出してくる紙を受け取り、早速紋章を描く。
迷う事はない。悩む事はない。
苗字でもある鬼灯の花に、オレが得意としている得物である刀。
これこそが、ホオズキ家の紋章だ。
「……へえ、なかなか良い紋章じゃないか」
「そうなのか? 紋章の良し悪しなんか、オレにはわからないが」
「ホオズキ男爵の紋章だってよくわかるよ。そっちの細いのはちょっとわからないが、この膨らんだようなのはカガチの花だろう?」
「カガチの花……?」
「知らないかい? 花言葉は確か……英傑、だったかね」
「英傑、ね……」
「私はホオズキ男爵にぴったりだと思うが、気に入らないかい?」
「まさか。自分で描いたんだ。気に入ってないわけないだろう?」
「それもそうさね。さて、あとは私達に任せてのんびりしてな。これであんたも貴族の仲間入りだ」
「貴族か。知識ではあるんだが、貴族ってのは一体何をしたらいいんだ?」
貴族貴族とは言っても、地球では廃れて久しい文化だ。
貴族制度が出てくるファンタジー作品なんかは珍しくないとは言え、実際にそういう制度に身を浸しているわけではないから、何をするべきか、何をしないべきかがわからない。
「別に何をしたって構やしないさ」
「……は?」
「貴族って言ったって、伯爵や公爵でもない限りは割と自由だからね。私みたいに執政官をしてもいいし、店を構えるのも、冒険者として名を上げるのもいいだろうさ。ホオズキ男爵は貴族になりたてで領地もないから、それこそ何に縛られるでもなく、好きな事が出来るね」
「なるほどな……」
「まあ、領地が欲しいとかってんならアレだけどね。そういう訳じゃないんだろう?」
「ああ。今は旅が楽しいからな。一つところに留まるのは、まだ当分先でいい」
「変わってるね。……いや、聞けばホオズキ男爵はこの大陸の生まれじゃないそうだから、そうでもないのかね」
「……まあ、自己責任で好きに出来るんなら色々やってみるかな」
「それが良いね。さて、それじゃあ私達はこれで失礼するよ。あとの事は全部こっちの仕事だから、ホオズキ男爵はのんびりしてな」
「さっきも聞いたよ、メルトール男爵」
「念押しってヤツさね。私の見立てでは、あんたみたいなタイプはすぐに一人でなんでも抱え込むからね。息抜きはしっかりしとくんだよ」
「わかった、わかったよ。母親みたいな事を言ってくれるな、メルトール男爵」
オレの言葉に笑ってから、メルトール男爵はコルティア子爵と紋章官の人と部屋を出ていく。
母さんとはタイプが違うが、肝っ玉母さんとでも言うような言い方だ。
まあ、メルトール男爵からも言われたし、せいぜいしっかりと休ませてもらうとしよう。




