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十九頁目 魔法開拓と錬金術と錬成術


「主、それはなんですか?」


 ダークエルフのユキヤと出会った日の夜。

 これ以上は暗くて危ない上にきちんと睡眠を摂らないとダメだという事で、焚き火を置いて夕食を摂る。

 その後、眠くなるまでは何かをしていようと思いインベントリから市場で買った魔法入門書を取り出して読んでみる。


「魔法の入門書だ。何をするにしても、基礎が出来てないとな」

「なるほど。立派な心掛けですね、主」


 焚き火の灯りを頼りに魔法入門書をパラパラと捲っていく。

 魔法入門書というだけあり、魔法とは何か、使うためにはどうすればいいか、各属性魔法の初級魔法の解説などが書いてある。ところどころ言葉が足りない部分もあるが、大まかに理解出来れば問題ないという事なんだろう。


 システム:職業『魔導師』カテゴリを解放


 何か知らんが解放されてしまった。これはつまり、魔導師としての入り口に立っているという事なんだろうか。

 とりあえずスキルポイントを回して上限まで取っておく。スキルレベルの上限は10、下限は1。

 魔法なら、レベルが上がれば上がるほど消費魔力量が減り、威力も上がる。物理アクティブスキルなら、単純に威力が上がる。


「……なるほどな」


 魔法には下位魔法と上位魔法がある。俗にファイヤーボールとかウィンドカッターとか呼ばれたりする魔法は下位、タイダルウェイヴとかアースクエイクとか呼ばれたりする魔法は上位にカテゴリされるらしい。

 簡単に分けるなら、火の玉や水の弾や風の刃や石礫を放つのが下位魔法で、火柱をあげたり波を起こしたり竜巻を発生させたり地震を起こしたりするのが上位魔法になるみたいだ。

 本来であれば魔法書とにらめっこしながら習熟度を高めて獲得していくらしいのだが、オレの場合は、そういう手順を無視してしまえるらしい。


「……そういえば主。こんな話は聞いた事ありますか? 魔法の中には、氷、爆発、混沌といった複合属性の魔法があるのだそうです」

「複合属性?」

「はい。現在判明している属性は、火、水、地、風、光、闇、無の七属性ですが、この七属性の組み合わせで複合属性が発現するようです。ただ、使える者がおらず、知識開拓が進んでいないようで、魔法書の類いは出回っておりませんが」

「……ダークエルフの里はそういう知識も持ってるのか?」

「いえ、里は閉鎖的なので、今の社会情勢や出回っている知識に関しては疎いです。これはエルフやハイエルフも変わりません」

「じゃあ、なんで知ってるんだ?」

「たまに外に出たダークエルフが里帰りするのですが、その時に聞きました。あるダークエルフは無を除く六属性までは習得したようですが、複合属性はどうしたらいいのかわからないようでしたね」

「複合属性ね……」


 話を聞く限りでは、おそらく、属性魔法をがむしゃらに組み合わせようとしても無駄なんだろう。薬の調合、あるいは料理の味付けのように、複数の属性を一定の割合で組み合わせる事が必要なのだろう。


「……ちょっと試してみるか」


 まずは氷からやってみよう。

 氷とはそもそもなんだ? 水が冷気によって冷やされ、一定の温度を下回ると徐々に凍結されて、そうして出来上がるのが氷だ。

 つまり、まずは水。次に冷気。冷気は気、すなわち風。水と風の複合で氷になると考えて問題ないだろう。


「水……風……」

「……主? どうなされました?」

「水を風によって冷却……」


 右手を広げて、そこに水球を喚び出す。そうしたら、その水球に少しずつ風の要素を足していく。一割、二割、三割……。


「まだか……?」


 四割。五割。六割に差し掛かったところで、水球が少し凍ったように見えたが、弾けて消えてしまった。維持出来なかったというより、許容量を突破してしまった、といった感じだ。


「あの、主? 何をしていらっしゃるのですか?」

「わからないか? 氷魔法を『作って』るんだ」


 魔法は単体で十割と考える。

 一つを五割に落とせば、もう一つが発動出来ると考えて問題ないはずだ。意識していたわけではないが、さっきの水球は『五割』だったんだ。だから、風が五割を超えた時点で消えた。

 複合属性は、複数の属性の割合が完璧ならば発動させられる。この仮説は間違いないだろう。

 つまり、水に風を加える段階で、風の割合に応じて水の割合を減らせば氷になる……?


「……実験あるのみ、だな」


 とりあえずさっきと同じようにして、風の割合が六割に差し掛かる頃に水を四割にしてみる。


「おお……? 少し、凍ってる……か?」


 僅かにではあるが、水球の表面が凍っているように見える。冬の寒い日に、道路の水溜まりに張った氷という感じだ。


「主。それは、凍っているのでは?」

「ああ。オレにもそう見える。見える……が、何かが足りない。水と風だけでは氷を構成するには至らない」

「何が足りないのでしょう? 水は水、風は冷気という事ですよね?」

「そうだ。だが……一体何が足りない?」


 水と冷気の要素は間違っていない。表面が凍っているという事は、冷気の役割を風属性はしっかり果たしていると言えるだろう。


「……冷気が足りない?」

「……はい?」


 ふと思い至る。

 日本の、冷蔵庫に搭載されている製氷機能。あれは水を入れたにも関わらず氷になって出てくる。冷蔵庫の室温は氷点下にはならないのに出てくるのは、製氷室の温度が氷点下を下回っているという事で。

 しかし、ここにそんなものはない。風で足りない冷気を補うには? 単体でも冷気を感じさせるものとは?

 答えは夜。あるいは闇。太陽の出ていない時間は日中に比べて温度が下がるのは当たり前。一晩で前日に凍ってなかった水溜まりが凍ってたなんて、よくある話だ。

 つまり、氷を構築するために必要な属性とは。


「はははっ……こんな事にすぐに気付けなかったとは……。文明人失格だろ」


 表面が凍っている水球の水の割合を三、風の割合を四にして、そこに闇属性を三割追加すると。


「……! あ、主、水球が……!」


 ピキピキと少しずつ少しずつ水球が凍っていく。そして間も無く、手のひらの上の水球は小さいながらも氷塊へと姿を変えた。


 システム:職業『???』カテゴリの『氷魔法』スキルを解放


「氷……だな? だよな?」

「はい!」


 喜色満面の笑みで頷くユキヤ。

 一応、念のために鑑定&分析(アナライズ)で確認。



 【小さな氷塊】

 水、風、闇の属性魔法を掛け合わせる事によって生成された小さな氷の塊。



 うん、確かに氷だ。間違いない。

 さっきもメッセージログに氷魔法が解放されたと流れたし、これは自他共に認める氷だ。


「主、触ってもいいでしょうか?」

「ああ、いいぞ」


 少し興奮気味のユキヤに氷を渡してやる。


「これが氷……! 冷たくてキラキラしていて、綺麗ですね、主!」

「そうだな」


 おかしいな。ユキヤが、興奮して嬉しそうに尻尾をぶんぶん振る大型犬に見えてきた。

 ちょっとバカっぽく見えるあたりが、そういうイメージを促進させるのかも知れない。


「……とりあえず、この入門書はもう要らないかな」


 最後にパラパラとページを捲ってみる。

 入門どころか氷魔法を開拓してしまったオレには、最早必要のないものだろう。


 システム:『速読』スキルを解放

 システム:『読解』スキルを解放


 ……早速習得しておこう。効率化を図れるスキルは、あって損はないしな。


 とりあえず、魔法入門書は焚き火の中へ。

 そして、インベントリから新しく本を取り出す。題名は『これであなたも錬金術師! 錬金術と錬成術を学ぶための本~入門編~』。

 正直ふざけていると思ったが仕方ないんだ。題名が日本で売ってる入門書みたいだったから、懐かしさを感じて買っただけなんだ。

 まあ、中をちらっと見た感じだと、割と本格的な本だったが。


「……主、それはなんですか?」

「これは錬成術と錬金術の入門書」

「主は勉強熱心なのですね。向上の心を忘れない。ユキヤもそれに倣いたく思います」

「そういうわけでもないんだがな……」


 少し興奮の落ち着いたユキヤを横目に本を開き、さっき習得した『速読』と『読解』で読み進める。

 最初は錬金術から。

 この錬金術は『金を錬成する術』で錬金術なのではなく、『金属を錬成する術』で錬金術のようで、土や金属の組成を組み換えて別の金属を作るための術らしい。他にも、単純に、宝石等の原石を無駄なく加工するためにも使えるとか。


 そして錬成術。

 これは体力回復薬や魔力回復薬といった、いわゆるポーションを製作するための術。

 術とは言っても魔法であるというわけではなく、昔ながらの薬の調合方法で大元となる粉末を作り、そこに水を加え、魔力を一定量注ぐ事で作成する。出来によって効果の大小が変わるが、粉末作成時に決定されるらしい。魔力は出来上がった薬に即効性を持たせるため。


「……ふむ。なるほどな」

「主、私にも読ませていただけませんか」

「ああ、構わない」


 ユキヤに本を渡すと、パラパラと捲って、最後のページを捲り終えて溜め息を吐き、こちらに本を返してきた。


「どうだ?」

「概要はなんとなくではありますが理解出来ました。しかし、私には出来る気がしませんね。錬成術ならば薬の調合と大差ありませんから、出来そうな気はしますが」

「そうか。……まあ、組成を組み換えるなんて、専門の知識でも無ければって感じだもんな」

「はい。主は出来そうでしたか?」

「……正直わからない。錬金術くらいなら試せそうだが」

「やってみては?」

「そうだな……そうするか」


 地面の土を一掴み握り込んで魔力を注ぐ。

 この時、組み換えて生成する先の物体をイメージしておく事が大事なのだそうだ。ただ、自分が見た事のない、あるいは存在の証明がなされていない架空の物体を目標にすると失敗するため、絶対にしてはならないとのこと。

 とりあえず……そうだな、玉鋼でいいか。

 そうして玉鋼をイメージしつつ魔力を注いでいくと、手が激しく発光し、僅かに熱を感じる。


「主、大丈夫ですか!?」

「問題ない。オレの従者を名乗るなら、この程度の事で心を乱すな」

「申し訳ありません……。このユキヤ、一層精進して参ります」


 と、ユキヤを宥めてはみたが、正直なところオレも少し驚いた。母さんの教えがなければ、ユキヤを見つけた時みたいに無様に声をあげていたかも知れない。……まあ、その時点で教えを実行出来てないわけだが。


 鬼灯家家訓、その一。

 いついかなる場合においても、心を平静に保ち、顔に出す事なかれ。

 ……忘れないようにしなければ。


「……出来たみたいだな」


 光がおさまった手の中には、握り込んでいた土の代わりに、妙にでこぼこした物体があった。


「これは……玉鋼ですね。主は玉鋼をご存じだったのですね」

「知識だけだがな」

「いえ、知識だけでもご立派です。他者が知らない事を知っているというのは、それだけで武器になりますから」


 確かに、知識があるのとないのでは圧倒的な格差が生まれる。それは武術でも、社会でも、何ら変わらない。

 歴史を紐解かずとも、戦争とは知識の奪い合いなのだと、頭の良い人間ならすぐに気付くはずだからな。それだけ、知識があるという事はアドバンテージになるわけだ。


「それもそうか」

「はい。……さあ、主。そろそろ火を消して、眠るといたしましょう。オルトーラ市まではまだありますゆえ、休める時に休みませんと」

「そうだな。おやすみ、ユキヤ」

「はい。おやすみなさいませ、主」

「……見張りはほどほどにな」


 念のためにユキヤに釘を刺しておいて、ローブを掛け布団代わりにして眠る。

 敷き布団がなくて地面に寝る形になるが、サバイバルでは足音にいち早く気付く事が肝要なため、問題ない。

 まさか母さんに教えられたサバイバル術が役立つ時が来るとは。人生わからないものだ。


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