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十頁目 スキル色々


「あァ……?」

「ひッ……!?」


 女の子に視線を向けると、さらに怯えた表情になって、少し後退りされた。なんだ、どういう事なんだ? この女の子は、化け物狼どもは、『どうしてオレに怯えているんだ』?

 その疑問を解消してくれたのは、視界左上のHPMPのゲージ……の、右隣に現れた小さな般若のようなアイコン。確か、あのMMORPGではバフやデバフが表示されていた場所だ。この、般若にも鬼にも見えるアイコンはなんだ。

 そこに注目すると、ウインドウが開いて説明が表示された。


 【鬼神状態(鬼ノ力)】

 全ての獣を従える鬼神の力が覚醒した状態。


 鬼ノ力? パッシブスキルじゃなかったのか。改めて鬼ノ力の説明を見てみるか。


 【鬼ノ力】

 鬼神として生まれた鬼の子に発現する力。発動すると全てのステータスが大幅に向上し、全ての獣を従える事が出来るようになる。

 また、『原初の刀ザナドゥ』の真の力を扱う事も出来るようになる。

 しかし、このスキルは任意での発動は出来ず、スキル所有者が圧倒的危機を感じた時のみ発動する。


 なるほど。火事場の馬鹿力みたいなものか。

 しかし、そういう事ならこの状況にも納得だ。無防備なのに化け物狼が攻撃してこないのは、鬼神状態が原因だったんだな。


「あんまり怯えないでくれ。少し傷つく」

「あ、いえ、その……」


 目の前の女の子が何故怯えているのかだが、消えた男の話からすると、この女の子は亜人らしい。だから、女の子の獣の部分に作用して怯えさせてしまっているんだろう。……と思う。


「……失せろ、犬。死にたくなければ、二度とこの街に近付くな」


 化け物狼を見ながら、通じるかわからないが語りかけてみると、キャインキャインと情けない鳴き声をあげて二頭とも走り去って行ってしまった。

 なるほど。スキル説明に嘘偽りなし、と。


 化け物狼が去ったおかげで圧倒的危機を感じなくなったのか、左上のアイコンは消え去った。


「……怪我はないか?」

「は、はい。大丈夫、です」

「そうか。足の具合はどうだ?」

「まだ痛みます……」

「……そうか。弱ったな、回復魔法でも使えればいいんだが」


 残念なことに、まだスキルは解放されていない。これだから物理一辺倒は。


「――おーい、そこのあんた!」

「ん?」


 声をかけられて振り向いてみれば、鎧は着ていないが、騎士団の面々と同じ雰囲気の男が二人、こちらに小走りで向かってきていた。

 男達は近くまでやってくると、『まさかこいつが倒したのか!?』という表情で、地に伏した化け物狼とオレを交互に見ている。が、仕事を思い出したのか、片割れが話し掛けてきた。


「あんた、名は?」

「……人に名を尋ねるなら、まず己から名乗る。常識だろう?」

「はは、こいつは失礼した。俺は王都警備隊のタスラム。こっちは同僚のソルダだ」

「タスラムに、ソルダね」

「ああ。で、あんたは?」

「オレはホオズキ。一介の旅人だ」

「ホオズキか、聞かない名前だな。生まれは?」

「この大陸ではない、とだけ」

「……なるほど。そっちの亜人奴隷はあんたのか?」

「いや、違う。主人らしき男はいたが、どうやらその化け物狼の襲来に恐れをなして、何処かに消えたらしい」

「そうか。まあ、そういう事なら仕方ない。また奴隷商人のとこに持ってくか……」


 どうやら主人のいなくなった奴隷というのは、また奴隷商人の扱いになるようだ。そうして経済が回っているなら、間違いではないんだろうな。


「……おい、これコマンダーウルフだぜ。上級種だ」

「なんだと!?」


 警備隊の片割れであるソルダが、鞘に入ったままの剣で化け物狼を突っついている。コマンダーウルフという名前だそうだが、タスラムが驚いているという事は、結構強いヤツなんだろうか。


「そのコマンダーウルフってのはなんなんだ?」

「あ、ああ。コマンダーウルフってのは、ウルフ種の上位に存在する魔物だ。下からウォリアーウルフ、ソルジャーウルフ、コマンダーウルフ、最上位種にクライムウルフといるんだが、このコマンダーウルフは、通常、冒険者が十人がかりでようやく倒せるようなやつなんだ」

「……へえ、そうなのか」

「あんた、よくこれを一人で倒したな!」

「……その倒したっていうのは、殺したって意味で言ってるのか?」

「そりゃそうさ。魔物は普通殺しちまうもんだからな」

「そうか。……だとしたら、あまり触らない方がいいぞ。そいつは殺したんじゃなくて気絶させただけだからな」

「いっ!?」

「マジか!?」


 すかさず警備隊の二人が飛び退く。さっきまでコマンダーウルフを突っついていたソルダの顔は、まるで『やべぇ事しちまった!』という表情をしている。


「……ところで、ちょっと訊きたいんだがいいか?」

「な、なんだ?」

「そのコマンダーウルフは冒険者ギルドに持ち込んでも大丈夫なのか?」

「あ、ああ……問題ない。特に目立った傷もないし、高値で買い取ってくれるはずだ」

「そうか、ありがとう。ついでにもう一つ訊きたいんだが、主人の消え失せた奴隷を貰う事って出来るのか?」

「ギルドで手続きをすれば可能だが……その亜人奴隷が欲しいのか?」

「まあ、欲しいな。一人旅も面白いが、旅のお供がいても面白いだろうしな」

「良かったら奴隷商店の場所を教えておこうか?」

「ありがたい申し出だが、遠慮しておく。まだこの国に詳しくないんでな」

「そうか。……そのコマンダーウルフ、運ぶのを手伝おうか?」

「……そうだな、差し支えなければ頼みたい」

「よし。おいソルダ。いつまでも青ざめてないで、詰所に行って応援を呼んできてくれ。コマンダーウルフを冒険者ギルドまで運ぶんだってな」

「……あ? ああ、そう……そうだな。行ってくるよ」


 タスラムの声で我を取り戻したソルダは、走ってこの場を去っていった。彼の心が早めに穏やかになるよう祈っておこう。


「……なあ、あんた。レベルはいくつなんだ?」

「レベル?」


 確か、さっきギルドに登録に行った時は――


「――8だったはずだが」

「は、8!? おいおい、いくらなんでも冗談が過ぎるぜ。今まで何とも戦ってこなかったのか?」

「必要に駆られなければ戦闘は避ける主義なんだ。幸い、気配を消す方が得意だしな」

「……職業は?」

「旅人さ。職業なんてない」

「はは、冗談だろ?」

「事実だよ」


 信じられないといった様子でタスラムがこちらを見つめてくる。


 そういえば、レベルが上がったからかスキルポイントを割り振れるようになってたな。何かあった時のために振っておくか。

 そう思い、スキルウインドウを開いて共通スキルを眺める。解放されていないスキルは灰色に表示されてるが、解放されているスキルは色がついているからわかりやすい。

 今解放されているのは、聞き耳、投擲、跳躍、疾走の四つ。保有スキルポイントは16あるから、とりあえず四つ全部取っておこう。

 ポイントを割り振ってスキルを習得すると、メッセージウインドウにログが流れた。


 システム:『聞き耳』スキルを習得

 システム:『投擲』スキルを習得

 システム:『跳躍』スキルを習得

 システム:『疾走』スキルを習得


 どうやらアクティブスキルは一つにつきスキルポイントは10割り振れるようになっているらしい。

 ただ、鑑定&分析(アナライズ)無限倉庫(インベントリ)みたいなパッシブスキルは習得しているだけで最大効果を発揮するらしく、スキルポイントは割り振れない。

 今回の聞き耳や疾走はパッシブスキルにあたるが、投擲と跳躍は行動時にオートで発動するタイプのアクティブスキルらしく、ポイントを割り振った分だけ効果が高まるようだ。

 ポイントの振り直しは……出来るのか。残ったポイントは投擲と跳躍に振っておこう。


「おーい、連れてきたぞー!」


 スキルについて色々考えている間に、ソルダが詰所から仲間を連れて戻ってきた。

 コマンダーウルフ……。いくらになるかな?



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