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「あ、あのシー様」
話しかけてきたのはさっき初々しい自己紹介をしてくれたターニャだ。
「シーでいいよ」
「あの、ヒースをあまり嫌わないでください」
ターニャが口を開いたのはヒース、さっきの好青年のことのようだ。
「うん」
「え、」
ディモンシーの返答が身構えていたものと違った返事だったのか、気の抜けた声を上げる。
「なんじゃ、まだ話しておったのか?シーちゃん、ちょっとターニャんを返してもらっても良いか?」
「あ、ごめんなさいハルちゃん。ありがとね、ターニャん」
ターニャは案の定顔を真っ赤にした。
「なにを赤くなっておるのじゃ、昔よく「はい、ターニャんです」と、返事してくれたではないか」
「あらまぁまぁ、ターニャんにも可愛い頃があったのね」
ワナワナと赤くなる。ここまで、剥きなるとは昔からこのネタでからかわれてきたのだろう。
「そのことは忘れてください!!ち、違うですよ、シー様!!私はこれでも192歳です!ハル様に脅されて言わされただけです!本気にしないでください!」
「なんじゃ、人聞きの悪いことを言うの」
恥ずかしさを隠そうとテンパった結果は、ハルルーラのニヤリと笑う顔だ。
「愛されてるね、ターニャん。」
「じゃろ?さぁ、ターニャんこれで終いではないぞ」
ハルルーラがターニャの袖を引っ張る。
「わ、ハル様。引っ張らないでください。シー様!ケーキ美味しく食べますから!!」
「はいはーい、たくさん食べてね」
そうして、引っ張られていくターニャんを見送った。
視線を外すと、みんな楽しそうにケーキを美味しそうに食べていた。そして、会話に花が咲く。ノスフェラ達のわまりには子供達から大人達までたくさんのエルフが集まっていた。「爺や」「婆や」と慕われているのがわかる。なんでかって、笑顔があふれているのだから。
ディモンシーの目の前を精霊が横切った。ふわふわとテーブルの後ろに降りて行った。すると、ひょこりと女の子が顔を出す。キョロキョロと周りを見渡している。誰かを探しているようだ。
「あら、かわいいお友達に連れられて、ようこそ」
ディモンシーの突然の呼び声に少し驚いたようだが、すぐににこりと笑った。
「精霊さんが教えてくれたの」
えへへと笑う女の子はまさに天使のようだ。
「そうなの、ケーキはもう食べた?」
「ううん、まだなの。食べていいのかなって…」
ディモンシーは、ケーキをとり分ける。
「他のお友達と、食べるといいわ」
そして、彼女に渡した。
「おーい、ヘレン!」
「ヘレンちゃーん」
すると、どこからか誰かを呼ぶ声が聞こえた。
「あ、リっくんとマーサちゃんだ!ばいばいおねーさん!ケーキありがとう」
呼ばれていたのは女の子だった。ヘレンはお礼と別れを告げると彼らに向かって走り出した。ふわりとヘレンの後ろを精霊が追いかけていく。
「楽しんでね」
ディモンシーは手を振り見送った。
「うーん、なんだか人集まりが悪いわね」
周りを見渡すと、あまり人が増えていない。ケーキはすごい勢いで減っているのに。ざわざわと葉が風に煽られ音を立てて揺れる音が響く。
しかし、そのさざめきは同時にとある人物が来たことを教えてくれた。
「カンナ!」
名前を呼ばれたわけではないがディモンシーは振り返る。目線の先にはカンナがいた。さっき会った時とは打って変わりきっちりと商人の服を着こなしている。
「すまない、遅れてしまったか?」
「ううん、全然。来てくれて嬉しいわ」
「本当は、来ていいものかと迷ったが、商人心が抑えられなかったんだ。呼んでくれてありがとう」
そう言ってカンナは周りを見渡した。鋭くギラつかせた瞳は目が光る。
「カンナのそういうところ好きだわー」
先ほど助けてもらった時とは打って変わりやる気満々のカンナの表情に年相応の無邪気さを感じた。
「シーさん!!」
「シーちゃんさーん!」
新しい訪問者の声が聞こえた。
「アイシャ、ハイロードこっちこっち」
手招きする。アイシャがぶんぶんと振り返してくれた。
「シーさん人使い荒いっス。俺らだって暇じゃないんすよ」
「うわぁ!ケーキだ!美味しそうー!シーちゃんさんありがとうです。ああ、これこそ言い訳したという甲斐があるものですねー!」
ハイロードは言葉の割になんだかんだで楽しそうだ。アイシャはむしろ開き直りすでにケーキを手に取っていた。
「気に入ってもらえたようでよかった。ところでご自慢のカルーヤたいちょーはどこかな?」
2人とも楽しんでる様子にディモンシーも笑みをこぼす。しかし、ディモンシーにケーキを大量に作らせた張本にが来てない。
「ああ、検問の方で商人の受け入れ準備っスよ。いやー、今日来る商人さんは気の毒っすね。終わったら来るすっ…ひょ!?!?」
息を詰まらすようにしていいよどむハイロード。
「わわっ、わー、ちょっと失礼しますー!」
固まったハイロードを押し出すようにして慌てた様子で退場していった。
「なになになに?すごい気になるんだけど…」
チラチラッとカンナを盗み見る。
「なんだ?」
「えー?追いかけないのー」
「…なんで」
「そんなの面白そうだからに決まってるじゃない!」
ぐっと、ガッツポーズをしキラキラと目を輝かせる。カンナは興味なさそうで、ディモンシーと目を合わせようとしない。
「興味ないな」
ピシャリと言い放った。
「ふーん?…」
パクッ、もぐもぐ。もぐもぐ。無言でケーキを食べる。ふわりとした甘さとふわふわのスポンジ。
「…美味しいな…」
固まっていたカンナの顔が解れる。スイーツがいかに偉大か教えてくれる。
「カンナは美味しそうに食べるね。…ギャップ惚れしそう」
「ぶっ」
カンナと目が合う。
「私のようなババアをからかってなにが面白いんだ」
反応からするになにか思い当たる節があったのだろうか。
「ふふ、はははは」
カンナの意外な可愛さにディモンシーは笑ってしまった。




