8話 何になりたいなんて
<登場人物>
*浄南病院研修医1年目*
・纐纈桜:主人公.A大学出身.北山田高校出身.
・箕浦健史:A大学出身,桜と一瞬恋愛関係になりかけたが桜に振られた.北山田高校出身,桜と同じ塾出身.
・秋間拓弥:A大学出身,高校時代桜と塾も一緒だった.西又高校出身.
・藤原琴海:B大学出身,北山田高校出身.言い方がキツくて桜は苦手.
・大輪田祐之:C大学出身,西又高校出身.第一印象よりは気さくだけど内弁慶.
*浄南病院研修医2年目*
・長瀬菜子:やる気なし系で病院で韓国ドラマ見るくらいの人.
・角田遊星:髪を脱色しているほどチャラい.人情厚い面もあるが桜はCPA事件をきっかけに余計に嫌いになった.
・安曇眞彦:資格大好き人間.司法試験合格している.
*浄南病院上級医*
・加藤先生:外科の先生.初めの準夜勤で一緒になり,陰で桜の行いに激怒していたため,桜のトラウマ.角田先生と仲がいい.
*その他* 省略
初めての当直も無事(?)何とか乗り越え,回っていた消化器内科も終了する頃.
食堂で,たまたま会った消化器内科の部長が,唐突に爆弾を投げてきた.
「纐纈さんって,何科志望なの?」
…ええ,その話は今のところ御法度なんですよ.
何でかって?
どこも辛そうすぎて,私には選べないの!!!!
大まかな話だと,外科,内科,マイナー科と大きく分けられて,その中でどれかを選ぶ感じになる.
まず外科.大学時代の実習の時に手術の副助手をやったことがある.明らかに手術中にあのクソ暑い清潔のための青い服を着させられ,空調も患者さんに合わせるから基本暑く,ずーっと立ってるから,足も辛い.
もちろん,下手したらオーバーナイトの手術(つまり,夜をまたぐってこと…時に肝臓移植とか膵臓癌の手術とかあの辺はやばい)だってある.
一言で言おう.
ぜーーーーーったい無理!!
体力的にもそうだし,何よりつまらなさそう!
逆に,外科の先生はすごいなーって,かなり尊敬しているんだけどね.
では内科は?確かに自分の手で患者さんに針を刺したり手術したりしないし,楽そうに見える.それに,クリニックとかだと,1番必要とされるのは内科か整形外科がほとんど.
でも,これにも問題がある.
内科専門医を取るための過程が,めっっっっっっっちゃめんどくさいこと.
今内科の専攻医(医師3〜5年目)やっている先生から聞いた話だと,J-oslerって言われる,超めんどくさい症例集めが必要らしく,みんなヒーヒー言いながらやってる.
やりたくねええええ!
何でそんなにめんどくさいんだ,それに当直業務もしっかりあるし,辛いことまみれでは?
じゃあマイナー科は?このマイナー科っていうのは,外科(整形外科や形成外科は入らないよ)と内科を除いたもの全てを合わせる.例えば,眼科とか皮膚科がわかりやすいかな.
正直,学生の私はマイナー科しか頭になかった.友達とかとも話してても,
「眼科とか皮膚科で悠々自適に過ごしたくない?」
「わかる〜」
とか,平然と話してたわけだし.そんな話を一緒にしていた美絵里ちゃん(序章に出てきたよ!),元気にしてるかな.
ただ,最近マイナー科も行きたくないな…って思い始めてる.
言い方はすっごく悪いけど,私の知っているA大学の先輩方で,浄南病院出身の方達の多くが皮膚科に行ったそうな.その人達は角田先生と仲良く,似たようなタイプだったのは確実.
皮膚科に限っての話じゃないだろうけど,マイナー科は手術に関係しない科になればなるほど緩めな印象がある.ああいう人がいるってことを考えると,皮膚科に行くとかになれば人間関係の方での問題がありそうで,選ぶのが怖すぎる.
そんなこんなで具体的にどこ,とは決して決められないんだけど,まあここまで書いたように,基本的には勤務医からは,外科や内科以外志望っていうと,かなりマイナスなのも事実.
実際,私もマッチングの時の面接ではちゃんと「消化器内科や循環器内科などの手技のある内科志望です!」とか大嘘をついていた.
現状はどうかって?消化器内科も循環器内科もぜーーーったいに途中で挫折するから無理!
だから,今どう返答するかというと?
「えへへ…内科系は考えてますかね…」
それ以上の言葉など言えなかった.
今週で消化器内科ローテも終了.次は呼吸器内科.
とりあえずは消化器内科はないな,とは思いつつも,もっと消化器内科のことを勉強しておきたかったとも思うのも事実.
まだまだ足りないことが多そうで,すぐに決める必要もないはず!
目の前の救急の本を,読み切ることに集中した.
____________
来る,呼吸器内科ローテ初日.
「纐纈先生ですね,よろしくお願いしますね」
あ!2回目の準夜勤の時の先生だ!名前は,芝浦先生だ.
「先生は内科に行く事を考えてると聞いてますけど,入院患者さんとかしっかり見たい感じですか?」
「はい!」
私の信条は,研修医中はどんな科であっても,ある程度はしっかりと理解しておきたいということ.
大変であっても,他の病院で研修医をしている友達に比べたら,可愛いものだと思ってるし,覚悟もある.
「じゃあ,今日から入院してくる,76歳の男性の患者さんを見てもらいましょうかね.この患者さんは肺扁平上皮癌で,オペ後再発でケモをしてたのですが,3rdラインでPDになってしまって,4thラインとしてAtezolizumabの導入目的で入院になります」
え,えっと,
何語?
3rdライン?PD?あ,あそてりずまぶ?
「ちょっと難しかったですね.多分本には意味は書いてあると思うので調べていただくといいかと思いますが,この人の流れの話でもしましょうか.カルテを一緒に見ましょう」
カルテにはそれこそ"PD"とか,"SD判定"とか,何を言ってるのか全くわからない羅列だったけど,1つずつ説明してくれた.
この患者さんは,初めに癌が見つかったのは5年前.その時に手術をしてたんだけど,1年で再発してしまったみたい.そうなると化学療法(ケモ,抗がん剤治療のこと)での治療しかない.その化学療法の内容も種類が色々あって,1回目,2回目,3回目といろんな薬を使っていったにも関わらず、癌が進行してしまって(PD),最後の砦として使用するのが"アテゾリズマブ"という薬.副作用も出る人は出るようで,普段は入院しないんだけど,初めてだから何が起こるかわからないって事で,入院で使用していく,ということのようだった.
難しいけど,たくさんの抗がん剤の名前が出てきて,どんな適応があるかも全部違うらしい.全然わからん.
「まあでもこの人は本当に長く生きられてますね〜.大体再発している肺癌は1年くらい持つかもたないかが平均のことも多いですし」
癌,そんな単語なんて大体の人が知ってる.私も国家試験をクリアしても,寿命までは医師国家試験では習わない.
そんな,抗がん剤で何とか命が繋がれてる人がいる.
「聴診とかも含めてしっかり見てあげてくださいね」
「はい!」
呼吸器内科ローテの,始まりの合図だった.




