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6話 忘れていた気持ち

<登場人物>


*浄南病院研修医1年目*

・纐纈桜:主人公.A大学出身.北山田高校出身.

・箕浦健史:A大学出身,桜と一瞬恋愛関係になりかけたが桜に振られた.北山田高校出身,桜と同じ塾出身.

・秋間拓弥:A大学出身,高校時代桜と塾も一緒だった.西又高校出身.

・藤原琴海:B大学出身,北山田高校出身.言い方がキツくて桜は苦手.

・大輪田祐之:C大学出身,西又高校出身.第一印象よりは気さくだけど内弁慶.


*浄南病院研修医2年目*

・長瀬菜子:やる気なし系で病院で韓国ドラマ見るくらいの人.

・角田遊星:髪を脱色しているほどチャラい.人情厚い面もあるが桜はCPA事件をきっかけに余計に嫌いになった.


*浄南病院上級医*

・加藤先生:外科の先生.初めの準夜勤で一緒になり,陰で桜の行いに激怒していたため,桜のトラウマ.角田先生と仲がいい.


*その他*

・美絵里:桜の大学の親友.

思えば,私が医者を目指そうって思ったのは,小学生の頃だった.


全てのきっかけは,小学校3年生の担任の先生の一言だった.


「桜さんは同学年の中でもかなり優秀です.中学受験をした方がいいと思います」


私の住んでいる地域では,東京とかとは違って,基本は公立中学校・高校と進んでいくのが普通.まず,中学受験を行う人もそこまでいなかった.


「さくちゃんには,女の子だし,資格の取れる職業で,食い扶持に困らないようにはさせたい」


そう考えていた母は,選択肢を広げるために『進学校』も考えた方がいいから,中学受験塾の入塾テストを受けてみよう,という話になった.


その時のクラスは真ん中で,そのクラスの中ではトップ1・2を争うレベルだった.

自分自身のプライドはエベレストまでは行かないまでも,富士山くらいには高かったから,やる気満々.すぐに1番上のクラスのトップ層に入っていった.


その後4年生で中学の見学に行った時,北山田中学校__後の母校__の設備が本当にかっこ良くて,「絶対に行きたい!」となった.


その北山田中学・高校は,医学部の進学実績が全生徒の1〜2割とかなり高く,私自身が当時算数と理科,社会が得意だったから,明らかに理系のトップの医師という資格は最適に見えた.母もやる気になって,私も自動的に「医者になりたい!」という思考になった.


その後中学受験でも難なく合格し,医学部受験のための塾に中学1年生から入って,部活なんてほぼせずに勉強に充てていた.

「偏差値の高い大学に行きたい」「誰もが憧れる職業になりたい」「今後仕事を辞めても雇ってくれるようなものが欲しい」「お金持ちになりたい」____本当にそれだけで,医学部を目指した.

中学や高校でもプライドの高さは健在で,唯一思い出すのは,高校時代に英語のリスニングが出来なさすぎて,私より勉強ができない子に結果見られて「え,桜でもこんなに悪い点数って取れるんだ」って言われて泣いたことくらいかな.恥ずかしい.


そしてそれもあってか成績は5位以内に常に入っていて,第一志望のA大学医学部に現役で合格.所謂『超エリートコース』に入ったけど,入ってみたら医師という仕事が思ったよりも大変そうなことに気づいた.


途中,家庭教師のバイトとかもして,「教師の道も捨てがたい」と母に話したら噴火しそうな勢いで怒られた.


医学部という到達点についてしまった後には,私には未来が全く見えなかった.

もうこのまま医者として働くしか道が見えない,そんなことも考えつつここまで来た.そしてこの結末.


「でも,ここから他の職業とかね〜…」


あまりにも他の職業のイメージもつかないし,初任給は大きな声では言えないけど,他の職業に比べたら高い方.ポルチェとかBNWとかの外車は乗れないけど,簡単な自分の趣味に余裕でお金が使える程度ではある.


それに,たった一回の私の『傷』のせいで,私の人生をめちゃくちゃにされたくない.


「まだ,辞めるのは早い」


もう,私は腹を括ったよ.




________そして,準夜勤,2回目であり最後.

今日の上級医は呼吸器内科の先生と,研修医は安曇眞彦《あずみまさひこ》先生.


「纐纈先生,あんまり焦らないのがいいよ.何かあれば私が教えるから,必ず相談してね」


安曇先生は,どうもかなり優秀な方みたいで,東京大学の文系に進み,司法試験に合格して,それに飽き足らず医師の資格が欲しいってことで,これもD大学という,旧帝大を卒業されて,なぜかこの地域に流れ着いた先生.

めちゃくちゃ資格オタクで,噂ではA4ファイル2冊分の資格証があるとかないとか.


そんなとんでもない経歴持ちでも,いや,それくらいに優秀だからか,何より面倒見がかなり良さそうな先生.

1回目の放任主義と比較にならないほど,あったかい空気だった.


「薬とかで心配なら,相談してくれていいですからね」


呼吸器内科の先生も,めちゃくちゃ優しい.

患者数もかなり少なく,本当に軽症な患者さんの診察で,何を聞けばいいかの予習を詳細に手伝ってもらったりと,救急外来への恐怖心は少し減った.


あんな殺伐とした,窮屈な救急ばかりじゃないんだな.


「まあまだ1ヶ月も経ってないのに求めませんから,ただし今度できるようになればいいんですよ」

「はい!」


メモを片手に,私もできるかも,と少しだけ自信がついてきた.





その後,時間通りに特に問題なく終了できた.


私も,こんな先生方のように,必要なことを指導するようないい先生になりたいな.


そんなことを思った.



その夜は,安眠できた.

次回は9月19日更新です.

シルバーウィークは毎日更新です!

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