29話 明らかな差別
<登場人物>
*浄南病院研修医1年目*
・纐纈桜:主人公.A大学出身.北山田高校出身.
・箕浦健史:A大学出身,桜と一瞬恋愛関係になりかけたが桜に振られた.北山田高校出身,桜と同じ塾出身.
・秋間拓弥:A大学出身,高校時代桜と塾も一緒だった.西又高校出身.
・藤原琴海:B大学出身,北山田高校出身.言い方がキツくて桜は苦手.
・大輪田祐之:C大学出身,西又高校出身.第一印象よりは気さくだけど内弁慶.
*浄南病院研修医2年目*
・長瀬菜子:やる気なし系で病院で韓国ドラマ見るくらいの人.
・角田遊星:髪を脱色しているほどチャラい.人情厚い面もあるが桜はCPA事件をきっかけに余計に嫌いになった.
・安曇眞彦:資格大好き人間.司法試験合格している.面倒見がいい.
・山田恭介:態度も体格もデカい人.面倒見がいい.野木先生と仲が悪い.
・佐藤柚紀:通称ゆき先生.桜の飲み友達.腎臓内科志望.
*浄南病院上級医*
・野木先生:外科の先生.桜を無視する系のパワハラ系上司.院長のコネ持ち.
・芝浦先生:呼吸器内科の先生.丁寧に教えてくれる.
・七森先生:腎臓内科の先生.桜を見守っており,優しい.
*その他*
・山下君:桜の幼馴染.よくゲームで一緒に遊んでる
・川端さん:ゆき先生と一緒に飲む友達.浄南病院の受付をしている
________あの喘息の患者さんの一件があってから,自分なりに咀嚼してから,私は研修医を総括する事務の人にメールをした.
…本当は直接話すべきなんだろうけど,事務さんは私達よりも早く帰るし,私が救急ローテ中ってこともあって,救急から離れられないし,どうしようもない.
そのメールは,本当に長く,そして内容は重いものだった.
『12月31日の件について
私は,大晦日の当直はこのままではできそうにはありません.
野木先生から,下記にわたることをされ,患者さんに迷惑をかける可能性が高く,私にはその責任は負えないと判断したからです』
そう始めた文章には,今までのことを全部書いた.
項目に分けて,もう今までの酷いことから全て,耐えられないってことを.
病院としては,問題になる方がまずいって判断するはず.
これでも動かないのであれば,私,続けられるのかわからない.
こんなメールを書いてる私の心理状態なんて,良い訳もない.ずっと,胸の辺りが重く感じた.
________そんなことをしてても,時間は過ぎていく.
メールに関して,返信が来た.
2日後だった.
『時間を頂き,事情を詳細に確認させてください』
日時は来週の木曜日になった.
_____私のこの気持ち,本当に届いて欲しい.
前回の救急ローテとはまた違う,なんともいえない気持ちがずーっと残っていた.
________そんな,事情聴取の日の2日前,
そう,2回目の火曜日の午前中が,来た.
「あ,纐纈さん.私,野木ちゃんから一緒に救急やってって言われたから,私に仕事振っていいよ」
…私と一緒にいたのは,
藤原さんだった.
…待って,『野木ちゃん』?どこまで仲良くなってるの.それも先輩,男性相手に『ちゃん』付けなんて,私にはできないよ?
それに,直接頼まれて救急をやりに来たって?ええ…
確かに仕事はこれで楽になるけど,そういうことじゃない.
ただ単に,自分と話して楽な人を連れてきて,私との関わりを減らすための策略じゃん.
なんなら,私の立場は?
ねえ,私って,何のためにいるの?
藤原さんのPHSの音が鳴る.
「はい〜,え,脳出血が来るんすね,わかりました!」
…絶対,野木じゃん.
私には死んでも連絡をしなかったのに,藤原さんには積極的にするんだね.
私にだってプライドがある.
この,救急ローテをやっている研修医としての,プライドが.
藤原さんの仕事だって,私のものだったはずだったのに.
「藤原さん,脳出血くるの?」
「私やるから触んなくていいよ」
…あ.そっか.
心の中がヘドロのようなもので埋まっていく感じがした.
________これが差別だって言わずに,何だっていうの.
私の気持ちは?
藤原さんも藤原さんだよ.本人に悪気はなくとも,『自分は好かれてるから触るな』ってことでしょ?
私の立場は?
握り過ぎた拳のせいで,爪の痕が残った.
何もいう権利がない,ただの空っぽな私が,"救急"という場所で,転がっていただけだった.
____私の事情聴取についての詳細な話が入ってきた.
『研修医担当の先生と院長も来てもらいます.時間は17時半で』
研修医担当の先生_____それは,外科の部長でもある.
外科の部長にも,私は良い思いは持ってない.
そりゃそうだ,私は追い出されて困ってても,私に怒るばかりだった人.
今まで,野木のことをどんだけ訴えても,何も変えてこなかった人.
野木自身は来ないみたいだけど,私にとってはムカつく人に対して,この話をしないといけない.
……もし,もしだよ?
これで,私の色んなことに対しての悲鳴を無視されたら,私はどうなるの?
逃げ場はないの?助けてくれる人なんて,いないの?
誰も助けてくれなかったら,私って,どうすればいいの?
_____ああ,この世に生きているから逃げられないってなるかな.
今いる研修医寮は,5階.
ベランダの方をじっと見る.
ベランダからは浄南病院が見えていて,夜だけど入院患者がいるから煌々と光っている.
車の音が,する.
暴走族かもしれない,そんなバイクの音.
「飛び降りたら,どうなるだろうな…」
5階からだったら死ねないな,大怪我になっちゃうな.
…でも,病院に行かなくて,働かなくて良くなるかな.
下を歩いてる人にぶつかるかな.
うちの病院だと対応できないってなると,他の大きな病院に運ばれるかな.
そしたら,他の病院で働いてる同級生に,バレちゃうな.
…これ以上のことを考えるのはやめた.




