30話 病院は守ってくれない
<登場人物>
*浄南病院研修医1年目*
・纐纈桜:主人公.A大学出身.北山田高校出身.
・箕浦健史:A大学出身,桜と一瞬恋愛関係になりかけたが桜に振られた.北山田高校出身,桜と同じ塾出身.
・秋間拓弥:A大学出身,高校時代桜と塾も一緒だった.西又高校出身.
・藤原琴海:B大学出身,北山田高校出身.言い方がキツくて桜は苦手.
・大輪田祐之:C大学出身,西又高校出身.第一印象よりは気さくだけど内弁慶.
*浄南病院研修医2年目*
・長瀬菜子:やる気なし系で病院で韓国ドラマ見るくらいの人.
・角田遊星:髪を脱色しているほどチャラい.人情厚い面もあるが桜はCPA事件をきっかけに余計に嫌いになった.
・安曇眞彦:資格大好き人間.司法試験合格している.面倒見がいい.
・山田恭介:態度も体格もデカい人.面倒見がいい.野木先生と仲が悪い.
・佐藤柚紀:通称ゆき先生.桜の飲み友達.腎臓内科志望.
*浄南病院上級医*
・野木先生:外科の先生.桜を無視する系のパワハラ系上司.院長のコネ持ち.
・芝浦先生:呼吸器内科の先生.丁寧に教えてくれる.
・七森先生:腎臓内科の先生.桜を見守っており,優しい.
*その他*
・山下君:桜の幼馴染.よくゲームで一緒に遊んでる
・川端さん:ゆき先生と一緒に飲む友達.浄南病院の受付をしている
17時半.
それは,事情聴取が始まる時だった.
部屋の中で,私の対面には外科部長,院長,研修担当の事務の人の3人.
自分の事情を聞く人はいても,何かあった時に助けてくれる人はいない.
院長は外科の先生だから,実質野木の上司2人が,私の前で座っている.
…心臓が,バクバクする.
「纐纈さん,では,話をしましょうか」
____そんな言葉で,『事情聴取』は始まった.
「________それで,喘息発作の患者の対応の時に,無視されたと」
「はい,今までのことがあって,私は怖くなって言えませんでした」
1つ1つ,あった事象を思い出させるかの如く,説明をさせられる.
「本を隠されたこともそうです.自分への嫌がらせとしか思えません」
私がそのことを言った時,外科部長は口を開いた.
「それは,君が悪いことでしょう」
________は?
「そんな幼稚なことをやる方が悪いのに,どうして私を責めるんですか?」
「君が邪魔なものを置いたのがいけないんじゃないの?」
…意味わかんない意味わかんない.
「じゃあ!全部やられたことを一人で我慢しろってことですか!?危険なことをされても,私はそれでも無視すれば良いんですか!?病院にとって危険だから,…だから私はこうやって話してるのに,そんなこと言わなくても良いじゃないですか!?」
声が,徐々に荒くなっていく.
思い出すだけでも涙が止まらない状態なのに.鼻水もマスクの中でダラダラと垂れる.
涙で,マスクがジトっと濡れた.
「その話とは別の話だと思うけど?」
「会話を拒否したまでの過程は大事だと思いますけど!?」
あ〜〜〜〜!!話にならない!!!!!
「結局は私の話なんて,全部否定したいだけの場なんですか!?明らかにパワハラでしょう!?」
「ただ,証拠がない」
…証拠ですって?
何度も言ってるし,周りの人も実態はすごく知ってる.救急の看護師なんて,私が悲しそうな顔してると大体フォローしてくれた.
そんな人々への聞き取り調査が,この場の前に全体的にされてたのだって知ってるよ?
それなのに,何が『証拠』だぁ!?
「証言なら,聞いている通りですよ!?どうして,信じてくれないんですか…」
ヒートアップする私を制止するかのように,事務さんは私に言った.
「事情はわかりました.ただ,年末の当直に関しては,誰も変更できません.ですので,どうにかするならあなたが変える以外はありません」
…実質,『お前が我慢しろ』の通告だった.
その日の当直以外は,他の研修医メンバーとかの関係もあって,変更できない.
年末年始の12月30日から1月3日までで,2回以上当直入ることも許されてない.
「変更は,私は無理です」
「それでもどうにかするのはあなたです」
話は平行線.
…もう,知らない.
「…じゃあ,
じゃあ,私はどんな風に患者さんに対して迷惑をかけて,訴えられるようなことがあっても,病院は黙認するってことですか?」
「…」
「私はただの研修医ですから,責任は取れませんし,患者さんの命の保証はできません」
「…でも,変更は難しいですから」
…ハッ
結局,私の今までのされた辛いことは否定され,当直は変更できず.
私に残ったことなんて,絶望だけじゃん.
「………わかりました.
もう,私のことは守ってくれないことはよくわかりました.
…もう,いいです」
私はそれだけを残して,その場を立ち去った.
最後まで,院長は黙ったままだった.
_____研修医寮から見える,病院の光.
患者さんもたくさん入院してるこの病院.
____こんな病院,クソッタレ.
ただ,社会人としておかしいことをした人間を,どうにかして欲しかった.
私のこの苦しみを,公式に認めて欲しかった.
それすらも許されず,パワハラも有耶無耶にされる.
「…やっぱり,私,死ぬしかないかも」
ベランダに出る.
外の空気はかなり寒くて,手が悴む.
真下を見ると,人が歩いていた.
…結構,5階って高いよね.
5階の景色は,また歪んでいた.
…ああ,せめて意識を飛ばすことさえできれば________
過換気になって,手が痺れてきた.
でも,それだけだった.
_____数日後,LIMEに連絡が来た.
『纐纈さん,31日の当直,夜だけは私が入るよ!19時までは他の先生も応援に来てくれるみたいだし,野木ちゃんと会わずに済むよ.私も野木ちゃんと組めてラッキーだし,大丈夫』
藤原さんだった.
…この上なくありがたい話だった.
『ありがとう,お願いするね.事務には私から話すね』
そんな言葉を送ってから,ベッドにスマホを投げた.
…あー,もう馬鹿らしいや.
アホくさ.
もう全てがどうでも良くなった.




