26話 循環器内科という場所
<登場人物>
*浄南病院研修医1年目*
・纐纈桜:主人公.A大学出身.北山田高校出身.
・箕浦健史:A大学出身,桜と一瞬恋愛関係になりかけたが桜に振られた.北山田高校出身,桜と同じ塾出身.
・秋間拓弥:A大学出身,高校時代桜と塾も一緒だった.西又高校出身.
・藤原琴海:B大学出身,北山田高校出身.言い方がキツくて桜は苦手.
・大輪田祐之:C大学出身,西又高校出身.第一印象よりは気さくだけど内弁慶.
*浄南病院研修医2年目*
・長瀬菜子:やる気なし系で病院で韓国ドラマ見るくらいの人.
・角田遊星:髪を脱色しているほどチャラい.人情厚い面もあるが桜はCPA事件をきっかけに余計に嫌いになった.
・安曇眞彦:資格大好き人間.司法試験合格している.面倒見がいい.
・山田恭介:態度も体格もデカい人.面倒見がいい.野木先生と仲が悪い.
・佐藤柚紀:通称ゆき先生.桜の飲み友達.腎臓内科志望.
*浄南病院上級医*
・野木先生:外科の先生.桜を無視する系のパワハラ系上司.院長のコネ持ち.
・芝浦先生:呼吸器内科の先生.丁寧に教えてくれる.
・七森先生:腎臓内科の先生.桜を見守っており,優しい.
*その他*
・山下君:桜の幼馴染.よくゲームで一緒に遊んでる
・川端さん:ゆき先生と一緒に飲む友達.浄南病院の受付をしている
循環器内科___それは,消化器内科と並んで,内科の中ではかなり忙しい科として知られている.
何をやる科か?って言われたら,"不整脈や心筋梗塞をメインに治す科"っていうイメージが強いかな.もちろん他もいっぱいあるけど,そのあたりが一般的にはイメージしやすいと思う.
じゃあその病気って,急いで対応が必要か?と言われると,『もちろんだね!!!』と言わざるを得ない.
心筋梗塞は,心臓を栄養する血管が詰まって起こることで,早く治療しないと場合によっては死に至る病だし,不整脈とかだと,物にはよるけど緊急で対応しないと死に至るものも存在する.
実際に,浄南病院に来る救急外来の患者さんに関しても,循環器内科は部長の先生も呼ばれたらすごい勢いで来てくれるし,処置してくれる.
____そんなの,私に向いてるわけなんてなかった.
それは,水曜日のことだった.
「纐纈さん,今日アブレーションがあるからカテ室集合ね」
アブレーション___それは,『心房細動』と言われる不整脈などに対して,心臓の変な電気の流れを焼いて治す,そんな治療.
言葉では聞いたことあるけど,実際にはみた事ない.
ちょっと気になる.
「わかりました」
本を持ちながら,カテ室に向かった.
カテ室では,鉛でできた防護服を着ながら,術野に入るところから始まった.
「今から眠くなる薬を入れていきますね」
患者さんに鎮静薬を入れながら,先生方はいそいそと準備を始める.
鼠径部から針を刺して,カテーテルを進めていく.
他にも首からも管を通していっているのが見えた.
モニターのピコピコという音が,バラバラなタイミングで鳴り続け,何となく不安を感じる.
そのうちに,モニターの音が更に増え,不協和音のように,高めの音でピコ,ピコ,とずっと鳴っていた.
術野の先生方に迷惑がかからないくらいの,看護師さんのいるあたりで私は手元を見ようと必死だった.
でも,手元を見ても,何もわかることなんてなかった.
私は,そこにいることの意味が,正直わからなくなった.
「纐纈先生,一度術野から出て,こっちで見てようか」
安曇先生の声で,私はカテ室の外の,ガラス張りになった待機室に戻った.
戻ってきた私に,安曇先生が心配そうに聞いてきた.
「わかった?」
わかるわけないじゃん,
「すいません,私,何やってるか全くわからなくて…」
「あれ,私も難しくて詳細は理解してないけど,これはここの電気信号を拾ってて…」
___待機室に映るモニターの説明をされても,何の説明なのかも正直わかんないや.
「とりあえず,ここにある電気信号?が綺麗に揃えばいいってことですか?」
「うーん,なんか違う気もするけど,似たようなことかな」
…安曇先生,ごめんなさい.聞くのは本当に申し訳なかった.
時間は10時.時計の針が動くカチッカチッという音が,何だか鳴り響く.
待機室は,やや室温が高かった.そして,湿度も高い.
___ああ,暑い___
徐々に,眠気が_____
何とか本を読もうとしても,鉛のように瞼が重い.
理解できない話,それと合わせて長いアブレーションの時間,この空気____
私は,知らぬ間に記憶を飛ばしていた.
____夢を,見ていた.
「私の病院は,待機とかあるし,循環器内科のローテの時は本当に嫌だったよ」
他の病院で聞いた,研修医の先輩の言葉がぐるぐると回る.
___大変そうだな…それに比べて私は____
「____はっ」
口から涎が垂れていた.
まずい,今,何時だ…?
時計を見る.既に11時だった.
ああ,終わった________
「あ,纐纈先生.もうすぐ終わるから,心エコー,一緒に当てようか」
安曇先生の隣で私…
寝てた!?
ああ,この情けないところを…後輩として恥ずかしい…
「心エコー,一緒にお願いします!」
急いで崩れた髪型を直して,頭に青色の不織布でできた帽子をかぶって,術野へと向かった.
________家に戻ってから,ぼーっとしていた.
循環器内科のことは,仕事内容として全く心惹かれないし,わかんないことすぎて,つまらないなって感じてしまう.
…でも,内科に進むためには,初めの対応くらいはできるようにしておく必要がある.
そこで,ふと思い出したもの.
「心電図検定,か…」
心電図は今後救急を見ていくためには必要な知識.
その勉強のために,検定って形であるのはいいことだと思う.
「げ,8月に出願…?一瞬で枠が埋まる…?」
いろんな人が受けるんだな…
級が色々あるらしくて,4級,3級,2級,1級があるみたいで,受かったらバッヂをもらう権利が得られるとか.
12月に試験日らしい.
「来年,受けてみようかな…」
この私が何とかして,循環器内科に向き合おうとした瞬間だった.




