21話 合わない仕事
<登場人物>
*浄南病院研修医1年目*
・纐纈桜:主人公.A大学出身.北山田高校出身.
・箕浦健史:A大学出身,桜と一瞬恋愛関係になりかけたが桜に振られた.北山田高校出身,桜と同じ塾出身.
・秋間拓弥:A大学出身,高校時代桜と塾も一緒だった.西又高校出身.
・藤原琴海:B大学出身,北山田高校出身.言い方がキツくて桜は苦手.
・大輪田祐之:C大学出身,西又高校出身.第一印象よりは気さくだけど内弁慶.
*浄南病院研修医2年目*
・長瀬菜子:やる気なし系で病院で韓国ドラマ見るくらいの人.
・角田遊星:髪を脱色しているほどチャラい.人情厚い面もあるが桜はCPA事件をきっかけに余計に嫌いになった.
・安曇眞彦:資格大好き人間.司法試験合格している.面倒見がいい.
・山田恭介:態度も体格もデカい人.面倒見がいい.野木先生と仲が悪い.
・佐藤柚紀:通称ゆき先生.桜の飲み友達.腎臓内科志望.
*浄南病院上級医*
・野木先生:外科の先生.桜を無視する系のパワハラ系上司.院長のコネ持ち.
・芝浦先生:呼吸器内科の先生.丁寧に教えてくれる.
・七森先生:腎臓内科の先生.桜を見守っており,優しい.
*その他*
・山下君:桜の幼馴染.よくゲームで一緒に遊んでる
・川端さん:ゆき先生と一緒に飲む友達.浄南病院の受付をしている
「邪魔」
「もう来るな」
「どうして来ないんだ!?」
「何で隠したかって?
それはお前が嫌いだから」
_____はっ.
…ああ,夢か.
まただな…こんな悪夢を見るの.
前あった本の行方不明事件から,こんな夢ばかり見る.
手術室に行けば動悸も続くし,でもやらないといけないから行くけど,ストレスが半端ないし,最近は過呼吸気味になるし,冷汗も出てる.
___これを,トラウマと言うんだろうな…
正当なやらかしで怒られた,とかならまだ自分のせいにできるけど,4月のあの事件といい,今回といい,納得いかないことで気分不良になるのは本当に無理.
一人暮らしの寮の入り口にあるホワイトボード.
昨日『麻酔科終了まで,あと5日』と書いて,寝たんだった.
『5』を『4』に変えて,私は出勤した.
________
「違うだろぉ!?」
身体が無意識にビクッとなる.
その言葉は,私に向けられた言葉だった.
それは,あまりにも挿管が上手くならないことによる,麻酔科の先生の苛つきだったんだと思う.
「すいません…」
私の態度もイラつかせるのはわかってる.でも,動悸もするし,意識しないと過呼吸になる.
「挿管,ちゃんとやってる?あんまりやってないんじゃないの?普通なら出来てて当たり前だろう!?」
私が下手で,全くできるようになってないのは百も承知.
でも,やってる件数を疑われるのはあんまりだと思う.
現に,Aラインはほぼ百発百中で,私が入らないような時は麻酔科のベテランでも無理,程度にまで上手くなった.
挿管は単純に下手なだけだと思うけど,もう自信なんてつく気がしない.
これ以上,私にできることなんて,回数をそれ以上稼ぐしかないけど,もう麻酔科も終わる.その上で,もう2度と麻酔科なんて回りたくない.
どんなことでも,自分が悪くないと思っても謝るしかないから文句言わずにいるけど,だんだん傷が抉られていっている感じがした.
___さらに,その日の昼頃だった.
ご飯を食べてる時に,CPA(心肺停止)の人が来る,とアナウンスがあった.
もうすぐ次の手術があるけど…
でも,正直なところ,戻りたくない気持ちの方が勝ってしまう.
担当の麻酔科の先生に連絡をする.
「今からCPAの人が来るそうで,終わったら麻酔の方に戻ろうと思うのですが,遅れます」
『わかりました』
一応確認もとったし,これで一旦は逃げられる…
もう,私には逃げることしか考えられなかった.
________
『何でいないの!?』
「あの,先ほど連絡した通り,CPAの対応に行ってて…」
『連絡くれないとわからないでしょ!?』
「連絡したのですが…」
『何で部長にも連絡しないの!?』
麻酔科の方に戻ろうとしたら,担当の麻酔科医からびっくりするほど凄んだ話し方で電話が来た.
私が逃げ出したことを怒るのならまだしも,まさか連絡のことで怒られるとは.
麻酔科医は基本的に個人で動くことになるから,部長,とかそういう人に連絡するっていう習慣はなかった.
だから,私も担当だけに連絡して,部長にはわざわざ連絡しなかったのに…
麻酔に入らずに怒られるのは10歩くらい譲ってわかるけど,まさか連絡の件で怒られるのは想定外.
「…すいません」
これ以上何か言っても,何も変わらない.
本当に,社会人になって,自分で不満を抱え込むことが多くなった.
不満をぶつけても,何も解決しないことに気付いてしまったからなんだけど,
___これが,『大人になる』ことなの___?
溜め込みすぎて,自分を壊す結果になることを,
この時はまだ,知る由もなかった.
________
「最近なんか纐纈さん,大変らしいね?」
麻酔科最終日目前の木曜日.
私は,研修医と専攻医(野木先生は不在)の飲み会にいた.
話を聞いて来るのは,ゴールデンウィークに一緒に当直をした先生だった.
「ははは…最近本をおそらく隠されてしまったりと,どうでもいいことで疲れてしまって…」
「何それ,本を隠される?」
隣にいた先生が,興味津々に入ってくる.
「はい,おそらく犯人もわかるのですが,明らかに目につきにくいところに本を移動されることを2回もされちゃって…」
「うわ,もしかして野木先生?」
「…」
無言の肯定だってことはわかってても,「いや,違います」なんて,口が裂けても言えなかった.
「俺は無視はされるけど,別にそこまでされたことないけどなぁ」
対面にいた大輪田が,余計なことを話す.
これだからあんたは…
「ちょっと野木先生にこっそり話聞いてみようかな」
よ,余計なことはしないでくださいよ…
でも,本当に野木先生がやったことなのか知りたいのも事実.
何も言わず,ただみんなの飲みっぷりをしっかりと見ていた.




