20話 幼稚すぎる嫌がらせ
<登場人物>
*浄南病院研修医1年目*
・纐纈桜:主人公.A大学出身.北山田高校出身.
・箕浦健史:A大学出身,桜と一瞬恋愛関係になりかけたが桜に振られた.北山田高校出身,桜と同じ塾出身.
・秋間拓弥:A大学出身,高校時代桜と塾も一緒だった.西又高校出身.
・藤原琴海:B大学出身,北山田高校出身.言い方がキツくて桜は苦手.
・大輪田祐之:C大学出身,西又高校出身.第一印象よりは気さくだけど内弁慶.
*浄南病院研修医2年目*
・長瀬菜子:やる気なし系で病院で韓国ドラマ見るくらいの人.
・角田遊星:髪を脱色しているほどチャラい.人情厚い面もあるが桜はCPA事件をきっかけに余計に嫌いになった.
・安曇眞彦:資格大好き人間.司法試験合格している.面倒見がいい.
・山田恭介:態度も体格もデカい人.面倒見がいい.野木先生と仲が悪い.
・佐藤柚紀:通称ゆき先生.桜の飲み友達.腎臓内科志望.
*浄南病院上級医*
・野木先生:外科の先生.桜を無視する系のパワハラ系上司.院長のコネ持ち.
・芝浦先生:呼吸器内科の先生.丁寧に教えてくれる.
・七森先生:腎臓内科の先生.桜を見守っており,優しい.
*その他*
・山下君:桜の幼馴染.よくゲームで一緒に遊んでる
・川端さん:ゆき先生と一緒に飲む友達.浄南病院の受付をしている
「最近どう?」
私の目の前には山下君がいた.
今日は,前々から話が出てたランチの日.結構いい感じの部屋をよく予約できたね,なんて言ってると,照れていた.
「私はねー,麻酔科っていうところいるんだけどね,手技を覚えるのに必死でさ〜」
「大変そうだな.前のパワハラの人は?」
「ああ…」
外科の時のあれこれがちらつく.
…まあ,細かく説明するのも面倒くさいし,まあいいか.
「先月は本当に嫌がらせされてたから,ストレスで疲れてさ,なかなか時間が取れなくて.ごめんね〜」
「まだあったの?懲りない上司だな」
間違いない.あまりにもしつこいと思う.
「まあでも今後あんまり関わらないはずだしね!」
「…それならいいけどね」
不穏なこと言うじゃん.
…そんなこと言っても,私だって心配.
完全に関わらないってことは無理だし.今後もまだ救急ローテもあるし,当直でも一緒にやることもありうるわけだし.
でも,まだされてないことで心配する必要はないよね.
「それより山下君の仕事は〜?」
「僕の方はね,〜」
その後は,本当に些細な話をしていた.
全く職場に関係ない人に話せて,ちょっとだけスッキリした.
________
それは,私がAラインをある程度取れるようになってきた頃だった.
私は自分の手技を磨くのに必死で,その手術室で誰が入るのかなんて,覚えてなかった.
手術室内のカルテが置いてある机に,後で読むために持ってきた本を一度置いて,麻酔の準備をする.
そのうちに鎮静薬を入れて,酸素マスクを患者さんの顔に当てて,準備を始める.
「纐纈さん,じゃあ挿管して,その後Aライン入れてみようか」
「はい!」
今日一緒に入っている麻酔科の女医さんの見ている中で,いそいそと挿管の準備をする.
「こういう時は,頭をお腹に押し込むと,首が曲がって入れやすいと思う」
「なるほど…」
この患者さんは若い人で,体格も良かった.
挿管はうまくできず,3回目で無事ちゃんと入ったことを確認した.
「挿管はまだまだだね.次はAラインね」
「はい!」
まず,患者さんの手首を指で触る.
…感じる,拍動.
エコーを使うこともできるようになったけど,今回は若い人だし,血管も蛇行してないからいけそう.
20ゲージの針を,45度くらいの角度をつけて一気に差し込む.
____すると,逆血が見られた.
「大分上手になってきたね」
「ありがとうございます!」
うまく取れたAラインの固定をオペ看さんがしている間に,他の薬の準備をする.
「準備も大分覚えたね」
「そう言われると嬉しいです〜」
ほのぼのとした空間だった.
____だからこそ,私は気付かなかった.
…それは,麻酔が落ち着いて,持ってきた本を読もうとした時だった.
「…あれ?」
私,カルテの近くに置いてたよね?
なくなってる…
こんなこと,今まで起こったことなんてなかった.
移動されてることはあれど,わからないところに移動されてたことはない.
…私の気のせい?他の部屋に忘れてきた?
「どうしたの?」
「いや,持ってきたはずの本が無くなってて…」
そうとしか言えなかった.
ちょっと他の部屋にでも探しに行こうかな.
___そしたら,麻酔科の先生から,「あったよ!」の言葉.
見つかった場所に唖然とした.
「これは流石に…」
カルテの上にある棚の,1番奥に,私の本は投げ捨てられていた.
「え…」
私の身長では奥までは見えない.
どうりで,見つからないわけだ.
こんなこと初めてだけど,邪魔でポイって投げたのかな…?
物の扱いに少し不快になったけど,私も置いた場所が悪かったし.
…そういえば,ここの手術室の執刀医と助手は?
____そこには,野木先生が,いた.
…いやいやいや,落ち着け.流石にそれは被害妄想がすぎる.
でも,こんなことやる人なんて,他にいる?今までなかったのに?
徐々に動悸が激しくなる.
____流石に1回だけじゃ,確証なんてない.
そう,落ち着けていた.
________でも,その日はすぐにやってきた.
隠された,次の日だった.
その日も,準備の前に本をカルテの端に置いていた.
この間の反省も兼ねて,邪魔にならないところに置けば,わからなくなることなんてないはずだし!!
____その,はずだった.
「また,私の本が,ない…」
また,置いた場所から消えていた.
___まさかね.
前回,本が消えた部屋とは別の所で,棚はない.
隠せる場所としては…隠すとしたらどこに置く?
…そして,その予感は当たってしまった.
カルテ用パソコンのモニター裏の配線がごちゃごちゃしている場所に,隠されていた.
…こんなところにわざわざ本を置くのは,流石にわざととしか考えられない.
今日も野木先生が入ってる部屋.
…もう,無理.
動悸で,ドクドクと身体中を血が駆け巡っていくのがわかる.
「先生,気分が悪いので出て行っていいですか」
「あ,ああ…」
麻酔科の先生は,私の顔を見て何とも言えなくなったのかな.
手術室を出る時には,もう涙がポロポロと頬を伝って,マスクがぐっしょり濡れていた.
「なん,で……っ,こんなことされないと…」
本を大事に抱きしめながら,手術室の更衣室に向かう.
途中でオペ看さんに「どうしたの?」と聞かれたけど,何も言えずにその場を去った.
それ以降,手術室に近づくだけで動悸がするようになった.




