18話 唯一の救い
<登場人物>
*浄南病院研修医1年目*
・纐纈桜:主人公.A大学出身.北山田高校出身.
・箕浦健史:A大学出身,桜と一瞬恋愛関係になりかけたが桜に振られた.北山田高校出身,桜と同じ塾出身.
・秋間拓弥:A大学出身,高校時代桜と塾も一緒だった.西又高校出身.
・藤原琴海:B大学出身,北山田高校出身.言い方がキツくて桜は苦手.
・大輪田祐之:C大学出身,西又高校出身.第一印象よりは気さくだけど内弁慶.
*浄南病院研修医2年目*
・長瀬菜子:やる気なし系で病院で韓国ドラマ見るくらいの人.
・角田遊星:髪を脱色しているほどチャラい.人情厚い面もあるが桜はCPA事件をきっかけに余計に嫌いになった.
・安曇眞彦:資格大好き人間.司法試験合格している.面倒見がいい.
・山田恭介:態度も体格もデカい人.面倒見がいい.
・佐藤柚紀:通称ゆき先生.桜の飲み友達.腎臓内科志望.
*浄南病院上級医*
・野木先生:外科の先生.桜を無視する系のパワハラ系上司.院長のコネ持ち.
・芝浦先生:呼吸器内科の先生.丁寧に教えてくれる.
・七森先生:腎臓内科の先生.桜を見守っており,優しい.
*その他*
・山下君:桜の幼馴染.よくゲームで一緒に遊んでる
・川端さん:ゆき先生と一緒に飲む友達.浄南病院の受付をしている
私のことを外科の先生達が守ってくれない____
その事実を突きつけられて,もうやる気がなくなっていた,そんな時だった.
「纐纈さん,第一助手として入ってもらっていい?」
消化器外科の中でも,甲状腺や乳腺といった所の癌などに対して手術するのが専門の先生から突如そんなことを言われた.
「え,わ,私が第一助手ですか…?」
「その日は外科の学会の日でほとんど人がいないからなんだけど,今までの様子見る限りだと多分大丈夫だから」
この先生は,"外科のメンバー"としての色がかなり薄い先生だった.
他の先生とは違って,嫌なことは言ってこない,優しい先生だった.
この手術はいつも研修医がいない時は野木先生が助手に入るらしいけど,その野木先生もいないから…
…これは,チャンスでは?
一緒に入るオペは乳癌で全摘(乳腺を全部摘出する)みたい.大体の流れは,学生時代にも何度も入ってたし,ここでも数回入ってるから心配は他の手術よりはいいけど…
「できるかは不安ですが…頑張ります!」
野木先生がいないって分かっただけでも,正直かなり幸せで,やっと自分の居場所が出来た気がした.
そして実際に入って,先生からの指示はあったものの,怒られるほどのことはなかった.
「今日はありがとうね」
その言葉が,心に沁みた.
________そんなこんなで,あと2日でローテが終わる.
あと2日も,大腸癌の手術と甲状腺の癌の手術に入ることが決まってる.大腸癌の方は第3助手みたいで,野木先生もいるらしい.
本当に私がいる意味あるの?って言葉は何とか飲み込んだ.
それに…
確かにあと2日で消化器外科は終了する.
でも,次始まるのは麻酔科.
麻酔科って,結局は手術室に1日中引きこもりすることが確定するわけで.
____手術室から,逃げ出したいっ……!!!!!
…その日の勤務時間終わりかけに,ゆき先生からLIMEが来た.
『今夜飲まない?』
その言葉に,『行きます!』と,すぐに返信した.
_____
「なんか大変そうって噂では聞いてたけど…
野木先生,嫌な人だけどそこまでの嫌がらせはされたことないかも」
今までの話をゆき先生に話した.
今日の居酒屋はおしゃれな焼肉屋.
焼肉と一緒に頼んだ冷麺,あり得ないくらいに美味しい.
私が「美味い,美味い!」って,どこかにアニメキャラでいなかった?ってくらいの勢いで冷麺を食べてると,ゆき先生はすごい勢いでお酒が消えていった.
「私,野木先生が女性に優しいとかいう話を聞いてたからイケるかなって思ってたらこれで,どういうこと!?って感じですよ」
そう,私はどこかで『女だし大丈夫』とか思ってた節があった.
「確かに菜子ちゃんとはすごく仲良いし,私にはそこまで強く当たらなかったからそう思われてたっていう可能性はあるよね」
「なるほど…」
2年目の先生方は他の病院に研修を受けにいってたりと,全員揃ってたのは初めのうちだけだったこともあって,長瀬先生と一緒に話してる所をみたことがないから,実感が全く湧かないけど…
ゆき先生との組み合わせをみた感じだと,確かに明らかに酷い無視とかはされてなさそうだった.
…なんなら,私相手より酷いのも見たことないけど.
「ああ,でも山田君はめっちゃ仲悪いよ.山田君から事務さんに頼んで,野木先生と当たらないようにしてもらったっていう話もあるわけだし」
何だそれ,初耳.
「山田先生と野木先生って仲が悪いんですか?」
「仲が悪すぎてこの病院に残れない!って,実家の方に行くって決めたくらいには」
確かに外科志望だったもんね,山田先生.そのまま残ったら,野木先生が直属の上司になるの?
…うわ,自分に置き換えて想像したけど,地獄だな.
「あの二人,水と油って感じだし」
「想像がつきますね…」
両方とも共通してるところは態度がでかいところ.違うところはおしゃべりか会話ぶった斬るタイプか…
うん,私でもわかる.同族嫌悪起こすって.
「そう考えると,桜ちゃんは当直さえ被らなければ,外科は希望しなさそうだし,もう関わりも薄くなるだろうしね」
そう考えるとそうかも.
…とはいえ.
「次の麻酔科ローテは不安しかありません…」
「まあ,科が違えば流石に影響はそこまでないんじゃないの?」
楽観的な言葉で励ましてくれるゆき先生.
「そうですよね!!」
日本酒のお猪口を一気飲みして,気合いを入れた.
ゆき先生の言葉を信じようとしていた私は,今後の麻酔科ローテを良く思おうと必死だったのかもしれない.
_____そんなに世の中甘くないのにね!!!




