↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
18/31

17話 濃縮されたパワハラ

<登場人物>


*浄南病院研修医1年目*

・纐纈桜:主人公.A大学出身.北山田高校出身.

・箕浦健史:A大学出身,桜と一瞬恋愛関係になりかけたが桜に振られた.北山田高校出身,桜と同じ塾出身.

・秋間拓弥:A大学出身,高校時代桜と塾も一緒だった.西又高校出身.

・藤原琴海:B大学出身,北山田高校出身.言い方がキツくて桜は苦手.

・大輪田祐之:C大学出身,西又高校出身.第一印象よりは気さくだけど内弁慶.


*浄南病院研修医2年目*

・長瀬菜子:やる気なし系で病院で韓国ドラマ見るくらいの人.

・角田遊星:髪を脱色しているほどチャラい.人情厚い面もあるが桜はCPA事件をきっかけに余計に嫌いになった.

・安曇眞彦:資格大好き人間.司法試験合格している.面倒見がいい.

・山田恭介:態度も体格もデカい人.面倒見がいい.


*浄南病院上級医*

・野木先生:外科の先生.桜を無視する系のパワハラ系上司.院長のコネ持ち.

・芝浦先生:呼吸器内科の先生.丁寧に教えてくれる.


*その他*

・山下君:桜の幼馴染.よくゲームで一緒に遊んでる

・川端さん:ゆき先生と一緒に飲む友達.浄南病院の受付をしている


「邪魔,どいて」

「…」


…何で,こんな嫌な問答から今日を始めないといけないのよ!!!!




____全ては,今日の手術日程確認から始まった.


「今日のラパコレ,纐纈さん入ってね」


BPPVから完全復活した私に,女医さんがそう教えてくれた.


手術日程のホワイトボードに,私の名前が書かれていた.


初めの方は気にしてなかったけど,整形外科の時とは違い,全部は入らなくていい感じなのね.



…で,1番問題なのは,執刀医や助手の欄.


『野木』…いや,まあ入ってますよね〜!!!!


野木先生は外科のメンバーの中で最年少だから,誰よりもオペに入ってる.


それもあって,私が入る予定になってるものの大半に名前が入ってる.



別にさ,私も大人なんだし,そんな人が嫌いだからってさ,替えてくれだの何だのって言わないよ?


でもさ,考えてみてよ.救急でひたすら無視され続けたあの経験があると,ビビるのは当然のことでは???


何されるの?って感じだし.何言われるんだろうかって,無視され続けるのだろうかって,不安しかない.




____で,いうまでもなく,現在.


ラパコレ(腹腔鏡で胆嚢を摘出する手術の略称)の準備のために手術室に入る.


腹腔鏡の手術自体,この病院では初めて見る.最後に見たのは実習の時だったかな?その時もあんまり興味なくて,それよりは甲状腺とか乳癌の手術をメインに見てたから,本当に曖昧な記憶しかない.


学生の頃なんて,他人事でしかなかったしね.


…ってなると,一度は準備とか,どうすればいいかとかも聞かないといけないわけで.


「あの,今回初めてなんですが,準備とk…」

「邪魔.」


…目の前にいるのに聞かないとおかしいと思ったから野木先生に聞いたけど,まあ話になりませんわな.


今回の執刀医の外科部長に聞こうっと.




今回の手術のメンバーは,執刀医が部長,第一助手が野木先生で第二助手が私.


助手も1人でもできる場合もあるみたいだけど,2人いると安定するみたい.でも,いなくてもいいっていうだけあって,研修医を置くレベルだから察しがつく.


「あの,先生,今日は私今からどうすれば…」


部長に近づく.


「野木君に聞かなかったの?…まあいいよ,手洗い行って来な」


"手洗い"っていうのは,手術前に手を清潔にすることで,普段の生活よりもかなり丁寧に洗う.その上で,滅菌されてないものを触ると"不潔"扱いになるし,もう一度手を洗い直す羽目になる.


これは学生時代にもいっぱいやってたし,整形外科の時にもやってるからこれは自信もってできる.


「わかりました!」


やっと,私の役割が渡された気がした.




_____そんなこんなで,野木先生からは色々無視や『邪魔』扱いをされ続けた.


水曜日は消化器内科との合同カンファレンスがあったはずなんだけど,って思ってた時も,近くにいたし聞こうとした時も,


「あの,今日ってカンファがあると思うのですが,どこへ…」

「来なくていい,邪魔だから」


…とか,こんな感じで追い払われ続けていた.


一緒に手術に入る時も,


「持ってて」


って執刀医に言われて持ってたコッヘル(手術の部品)も,すごい勢いで奪われるし,何かにつけて嫌がらせされているのは流石に間違いないと言わざるを得ない.


その『邪魔』ってさ,あなたにとってはそうかもしれないけどさ,他の先生にとってはどうなの?って話で.


でも,どこでやってるのかもわからないし,他の先生もどこかに行ってるし,これ本当にどうすればいいんだ.




_____そして,徐々に私の目から光が消えていった.



そんな私を,遠くで見守ってくれてたのが,


腎臓内科の部長の,七森先生だった.



この七森先生は,たまたま救急で一緒になって,その時に私が勉強しているのを見て興味を示してくれた.


「纐纈さんは頑張ってるから,すごいね」


そんな風に褒められるもんだから,私も嬉しくなって,七森先生とその後も医局でお話をする程度にまでは交流があった.



そんな先生に,医局で落ち込みながらカルテを見ていた私のことを,先生が気にしてくれてたみたいだった.


「纐纈さん,大丈夫?」


その言葉に,ちょっと泣きたくなった.


「外科で先生とうまくいかなくて…」

「そうか…腎臓内科に回ってる研修医もいないから,何か手技があれば纐纈さんも見にくる?」

「え,いいんですか!?嬉しいです!」


気を遣ってくれる七森先生に涙が出そうだった.





_____それは,3週目の初めだった.


またホワイトボードに自分の名前が書いてある手術に入るために,手術室に向かう.


…なんか最近,私の名前が入っているものが減ってる気がするけど,気のせいかな.


正直,『邪魔』って言葉がぐるぐるして,手術って聞くだけで気分が悪くなるくらいにまではなってた.


その手術は今日最後の手術だった.


向かった先には,また野木先生.


手術室の前にいた.


「邪魔だから入るな」


…また,あまりにもな話だった.


「でも,部長からは入るようにと…」

「入るなって言ってるから.出ていけ」


____はあ!?


いっつもいっつも,なんでこんなこと言われないといけないの?


ただでさえこっちも嫌なのに.この人がいない手術の時は本当に平気なのに,もううんざり.


「…わかりました」



いや,私は納得してないよ.


何でこんなにもやってることがお子ちゃまなの?学年は4つ上みたいだけど,向こうは浪人してるから年齢は5つ上.30歳のおじさんのくせに,若い女にこんな態度って,恥ずかしく思わないの?


でも,言い返しても,自分が不利なところは無視するの分かってるし,もういいや.


もう,疲れた.



そのまま更衣室に向かって,いつものスクラブに着替えた.




___そして医局にまた戻った私の顔が落ち込んでいるように見えたのか,また七森先生に見られて,心配そうに覗き込んできた.



「纐纈さん,どうしたの」

「あの,手術に入ろうとしたら野木先生に『入るな』って言われちゃって…それならと思って帰って来ちゃいました」

「あ,なら」


七森先生が目の前のカルテをカチカチと動かす.


「この患者さんにCVを入れようと思うんだけど,今から一緒に入れてみない?」

「え,いいんですか!?」


CVっていうのは,普通の点滴からだと投与できないものを入れるために太い血管に入れる管のことで,中心静脈カテーテルともいう.これを入れる場所は右の頸部が多いとは知識としてある.


今後,内科とか外科とかに進むならまず出来たほうがいいもので,1回もやったことがない私にとっては願ってもない提案.


「じゃあ今から行こうか」


七森先生の言葉に,私は自然に顔が明るくなった.




________そして,ここからが問題だった.


CVを入れ終わり,医局に戻ったら,部長の先生が私を探していた.


「纐纈さん,どうして手術に入らなかったんだ!?」


…はい?


「野木先生に『入るな』って言われたので,入れませんでした」

「それでも入るのが常識だろ!?」


そんなことある!?


「『入るな』と言われて入らないといけないとは思いませんでした」

「ったく…カンファにも出ないし,何やってんだ!?」

「場所を教えてもらえませんでした」

「何やってるんだ!!!」


…私が何言っても,どんな目に遭わされてても,関係ないもんね,この部長は.



この部長は知ってるはずなのに.


この人は私達研修医の総括をしているし,この間の面談でちゃんと救急での野木先生の態度の話もしてたはず.


それも直ってないし,何なら今は嫌がらせがエスカレートしてても,どうせ私のことなんて見てくれないんだね.


…外科なんて,大嫌い.



部長がいなくなって,涙がうっすら目に溜まった.


七森先生がこの時も私のフォローをしてくれてたのは嬉しかったけど,




私の心の傷口は,治りそうになかった.

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。