16話 外科ローテ,束の間の休息
<登場人物>
*浄南病院研修医1年目*
・纐纈桜:主人公.A大学出身.北山田高校出身.
・箕浦健史:A大学出身,桜と一瞬恋愛関係になりかけたが桜に振られた.北山田高校出身,桜と同じ塾出身.
・秋間拓弥:A大学出身,高校時代桜と塾も一緒だった.西又高校出身.
・藤原琴海:B大学出身,北山田高校出身.言い方がキツくて桜は苦手.
・大輪田祐之:C大学出身,西又高校出身.第一印象よりは気さくだけど内弁慶.
*浄南病院研修医2年目*
・長瀬菜子:やる気なし系で病院で韓国ドラマ見るくらいの人.
・角田遊星:髪を脱色しているほどチャラい.人情厚い面もあるが桜はCPA事件をきっかけに余計に嫌いになった.
・安曇眞彦:資格大好き人間.司法試験合格している.面倒見がいい.
・山田恭介:態度も体格もデカい人.面倒見がいい.
*浄南病院上級医*
・野木先生:外科の先生.桜を無視する系のパワハラ系上司.院長のコネ持ち.
・芝浦先生:呼吸器内科の先生.丁寧に教えてくれる.
*その他*
・山下君:桜の幼馴染.よくゲームで一緒に遊んでる
・川端さん:ゆき先生と一緒に飲む友達.浄南病院の受付をしている
確かに,私はこの前の金曜日のゆき先生の話を引きずっていた.
___誰も浄南病院には残らないっていう話.
自分もそろそろどこに行くのか決めないとな…なんて,色々考えてたけど…
…外科ローテ最初の朝,起き上がるタイミングで,違和感があった.
__ヤバい,フラフラする!!!
もしかしてコロナ!?
確かに救急でそれはそれは大量の患者さんをみてたけど,このタイミングで!?
熱は…体温計を信じたらなさそうだけど,風邪の症状がなくてもコロナの可能性あるし…
どちらにせよ,出勤しないと!!!
…うう,フラフラする…
________
「コロナは陰性だね」
自分で鼻に検査キットを突っ込んで,念入りに擦ってみたけど,コロナは陰性だった.少し安心.
「う,動けない…」
時間が経つにつれ怠くなってきて,なんとか救急の処置室の端のベッドを借りて寝ることにした.
家からここまで一度も寝転がらなかったから気づかなかったけどこれは…
BPPV(良性発作性頭位めまい症)じゃないか!?
私,一度高校生の時になったことあったんだよね…
寝転がったらすごーく視界がぐるぐるする.
この病気だと,大体頭を動かすと症状が酷くなるから…
頭だけ右を向く.
…うわっ,これ,多分眼振がとんでもなく出てる!!
眼振ってのは,目が無意識に揺れちゃうこと.今,見えてるけどぼやけるというより,視点が定まらないせいで視界がぐちゃぐちゃしてる感じ.
こりゃ,症状からBPPVの診断でいいんじゃないかな.
左を向いても同じ感じだし,上下に顔を動かしても気持ち悪い.
「纐纈さん,大丈夫?」
たまたま救急の担当だった箕浦が,処置室に入ってきた.
「ごめん,多分BPPVだから,めまい点滴とプリンペラン(吐き気止め)お願い…」
「あー,おけ.無理しないでね」
箕浦,ありがとう…
看護師さんが来るまで,私はじっとしているしかできなかった.
____こんな状態で仕事なんかできるわけもなく.
外科初日からこんな状態になるなんて,本当についてない.
…まあ,もしかしたら無意識のうちに野木先生のことが頭によぎって,ストレスだったのかもしれない.
めまいに効くとされる点滴(効果は正直微妙)を入れてからも症状は良くなった感じがしない.
ただ,頭さえ動かさなければ意外に平気かも…
そう思って外科の上級医にも連絡して手術室に向かおうと,手術室用のスクラブに着替えようとしたら,頭が動いて即動けなくなってリタイア.
「一回当直室で午前中寝させてもらえませんか…?」
事務さんに相談して,一人でEpley法(体操みたいなもの.BPPVはこれで治ることも)をやったけど,あんまり効果は得られなかった.
____そして,午後.
なんとか着替えることができて,流石に何もせずに病院にいるのは給料泥棒かなって思ったし,できる範囲で手術に入ろう!って思った.
「纐纈さん,大丈夫?」
外科の女医さんに心配させてしまったよ.あんまり交流なかったのにここまで心配されるとか不覚…
「頭を動かさなければ…」
「無理せずね,やりたいなら止めないけど…」
「頑張ります!」
頭を間違えて動かした時点で終わり.
チキンレースの,始まりだった.
________そして,なんとかその日のうちは過ごせた.
と言っても,手術の助手をすると,時々執刀医から指示される.その時に手元を見るため,とか言って間違えて下の方を向いたら一巻の終わり.かなり気持ち悪いのを一人で我慢する羽目になる.
逆に,身体ごと動かせば気持ち悪くならないこともわかって,ロボットみたいな動きをしながら生活してた.
…全て終わって,風呂に入ってからベッドにダイブする.
天井がぐるぐる回ってる.
実は明日は当直の日.
「これ,治らないと当直なんて無理なんじゃ…」
明日の朝,改善してなければ他の人に代わってもらえないか相談しよう.
____そして,案の定,よくなってなかった.
「他の人に代わってもらうのも検討だな…」
起きてすぐに研修医1年目LIMEを開く.
『めまいが治らなくて,今日の当直,もしかしたらできないかもしれなくてヤバいかもしれない.めまい薬処方してもらう必要あるし家でもきついから出勤はするけど,当直無理な場合代わってくれる人がいなかったら上級医にも掛け合ってみます』
人に迷惑かけるの,本当に嫌だから当直に影響なければいいけど,なんかあった時に対応できなかったら本当にどうしようもないし…
そしたら,秋間から.
『僕と大輪田なら多分入れるからもし何かあれば代わるし大丈夫よ〜』
その返信見て,安心してご飯を食べた.
____その日は何とか仕事はできた.
昨日よりは頭を動かさずに生活することもできて,これなら当直できそう.
手術も,今日はたまたまなくて,休み.
「纐纈さん,大丈夫?」
医局で私が休んでたら,秋間が心配そうに私を覗き込む.
「今日はオペもないし,何とか当直できそうだわ.迷惑かけて本当にごめんね」
「大丈夫,気にしないでね」
秋間〜〜〜!!!なんていい奴…!
「なんかあったら私,助けるから!」
「本当に気にしなくていいのに」
いい仲間がいて,本当に良かった.
___この時は,忘れていた.
野木先生と一緒に働くということがどういうことなのか,
最初の3日間は鳴りを潜めていただけに,完全に抜けていた.




