14話 頼りになる人達
<登場人物>
*浄南病院研修医1年目*
・纐纈桜:主人公.A大学出身.北山田高校出身.
・箕浦健史:A大学出身,桜と一瞬恋愛関係になりかけたが桜に振られた.北山田高校出身,桜と同じ塾出身.
・秋間拓弥:A大学出身,高校時代桜と塾も一緒だった.西又高校出身.
・藤原琴海:B大学出身,北山田高校出身.言い方がキツくて桜は苦手.
・大輪田祐之:C大学出身,西又高校出身.第一印象よりは気さくだけど内弁慶.
*浄南病院研修医2年目*
・長瀬菜子:やる気なし系で病院で韓国ドラマ見るくらいの人.
・角田遊星:髪を脱色しているほどチャラい.人情厚い面もあるが桜はCPA事件をきっかけに余計に嫌いになった.
・安曇眞彦:資格大好き人間.司法試験合格している.
*浄南病院上級医*
・野木先生:外科の先生.桜を無視する系のパワハラ系上司.院長のコネ持ち.
・芝浦先生:呼吸器内科の先生.丁寧に教えてくれる.
*その他*
・山下君:桜の幼馴染.よくゲームで一緒に遊んでる.
それは,救急が2週間終わったところだった.
その時は,朝からかなり患者さんの数が多かった.
「今からコロナの100歳のおばあちゃんの酸素化低下がきますのでお願いします.10分後です」
それは,10時ごろだった.上級医からの指示が私の耳に入る.
既にみている患者さんは2人.結果が出ていなくて全く進まない状況.
「わかりました」
未だに病院ルールでコロナ患者さんにはN95マスク(病原体を絶対に通さないためのかなり苦しいマスク)をつけないといけないし,かなり面倒.コロナ患者が一人来るだけで,対応が大変だから他の患者さんを10分は見ることができない.
…他に来るとかないよね?
フラグをすぐに回収するかの如く,救急隊からの連絡がもう一件.
「53歳男性,外での作業中のふらつき,10分後」
…って,えええ!?
さっきのコロナのおばあちゃんと時間がほぼ丸かぶりにならない!?
どちらにしても,上級医はコロナ対応の準備の面倒さで大体私達が全てやらないといけないし,年齢とか症状を考えても100歳の方を優先した方がいいから,ふらつきよりもコロナを優先するしかない.
「もう,しらね…」
先に来た救急車の対応を進めるしかない.
ゾロゾロと入ってくる救急隊に対して,声をしっかり張り上げる.
「1番診察室へお願いします!」
_____私の嫌な予感は,当たってた.
私がN95マスクをつけてる間に,熱中症疑いのおじさんが運ばれてきてるじゃん!?
私,無理だが!?
〜〜〜っ,しらね!
私は見てないふりしておばあちゃんの対応をした.
________
はあ,苦しかった…
コロナのおばあちゃんの初期対応が済んで,N95マスクを外し,大きく息を吸った.
これさ,熱出してるおばあちゃんが寒がりだし,部屋の温度を上げてるせいで,ただでさえ暑いこのマスクの中が限界まで蒸れて,マスク下が汗でびしょびしょになっていた.
…そういや,さっきの熱中症の人って…
…見たら,無意識に「うげっ」と声が出てしまった.
救急隊が,10分も経ってるのにまだ私を待ってる!?
ちなみにその時の上級医は他の人を見るわけでもなく,カルテを眺めてるだけ.
「なんであの人まだ見てないの?遅い」
それで私に言う言葉が,これ?
まだあれがコロナじゃなければできただろうけど,1分で全て終わらせられるわけないし,マスク着用だって時間がかかるのに,それでこの言われよう?
…でも,上級医に歯向かう必要はない.
「…すいません」
その言葉だけ残して,対応が遅れてキレかけているおじさんの対応に向かった.
そんなの,私のせいじゃないじゃん…!!!そこまで言うなら他の上級医みたいに手伝ってよ…!!!
……とまあ,おじさんからの私に対するクレームを聞きつつ,心の中で「知らねえよ」と毒を吐きながら,
「すいません,この病院のスタッフ不足で…」
とか適当な言い訳をつけて過ごし,カルテをやっと書けるわ,くらいの気持ちでいたら.
「今から救急車2台,過換気とふらつき」
…まだあの2人きてから30分しか経ってないんだが!?
ベッドもほぼ全部埋まるんだが!?
これ以上増やしたら,流石に一人のキャパを超えますって…
「…勘弁してよ…」
私の呟きは,どこかに消えていった.
____案の定,2人分の救急車は1分の間で来た.
あまりにもすぎるでしょ…
ちなみに,今来た人抜いても4人,カルテは主訴しか書けてないし,検査オーダーが関の山で,聞き出したこと(キーワードのみ)を書いたメモで机が散らばっている.
一人目を見ているうちに来た救急隊の人を見つつ,どうしようと思ってたら…
「あ,救急隊の方〜こっちお願いしま〜す」
____救世主!?!?
その声の主は,研修医2年の山田恭介先生だった.
________
「いやー,先生,大変だったね〜」
何とか残ってた人を捌き切った後,山田先生が私に話しかけてきた.
「山田先生,本当に助かりました!
…あと,途中で安曇先生まで…本当にありがとうございました」
何と,あの後安曇先生まで応援に来てくれて,かなり患者さんの対応をしてもらった.すごく助かる.
「ああいう時は,私でもいいんで人に頼ることも大事ですよ.同期とかにも」
「そうだよ〜纐纈先生.僕達,暇なんでね〜」
…本当に優しい先輩達だ.
「まあでもあまりにも山田君は態度が大きすぎるけどね」
「イデッ」
後ろから午後の上級医が,山田先生を小突きながら出てきた.
確かに山田先生は,態度がデカい.本当にデカい.
それでいて貫禄のある恰幅のいい体型.こちらも大変大きい.
消化管(腸とか胃とか)の奇妙なキャラが書いてあるスクラブを着てるせいで,余計妙に存在感がある.
研修医ってよりも医師10年目って言われても違和感ないくらい.
後輩にとってはいい先輩なのは間違いないんだけど…同期にいたら鼻に付くタイプなのも間違いない.
「まだまだ2年目らしくできないものはできないんだから,そんなに偉そうにしないの」
「いやー,僕はね?別にそんなつもり全く無いんですよ?」
…いや,そういうところやねん!上級医に何言ってんねん!
いかんいかん,思わず突っ込みたくなるわ.
「纐纈さんは,もう少し患者さんの対応を早くした方がいいかな.コロナの人は仕方がないけど,私だったらこの人を先に検査入れて,その後に話を聞くとかすればもっと上手くできたと思いますよ」
「なーるほど…」
後ろで山田先生が上級医とギャーギャーやってるのを尻目に,安曇先生から色々と指導を受ける.
…ほんと,安曇先生ってすごい.
知識もある程度あるし,ちゃんと後輩を後輩として助けてくれる.
安曇先生って,来年はどこに行くんだろう.
その『どこ』っていうのは,場所とか,診療科とか.
うちの病院に残るのかどうか,っていう意味でも.
「あの,安曇先生」
「?どうしました?」
「先生って,来年何科に進むんですか?うちに残るんですか?」
安曇先生は,少し困った顔をしてた.
「私は,呼吸器内科に行こうと思ってます.ここには残りませんし,全然別の地域の田舎の病院に行くつもりです」
__その答えは,私にとってあまりにも衝撃的で,
来年度はもういないんだと,心がポッカリと空いた気分だった.




